ロッカーの中の秘密の恋-1
それは、突然だった。突然、彼は私の手をぐいと引っ張って、なんと半開きだったロッカーの扉の中に私を押し込めて、さらに彼も入り込んでバタンと内側から閉めた。
え、なにそれ。
私達の大して広くもない研究室の隅に中途半端なサイズのロッカーがあったのだ。そこには、普段みんなが上着や傘なんかを適当に突っ込んでいたけれど、割とたてに長いそれは無駄にでかい、と思っていたのだ。
研究室は薬品くさいし、ちょっと湿っぽいし、こんな陰気くさい部屋の、暗いグレイの変なおおきさのロッカーに、教授とふたりぎゅうぎゅう詰め。おかしい。なんでこんなことしてるんだろう、と思った。体を動かそうとするとうしろから回った彼の腕がぎゅっと締まる。
「だめー。」彼がいつものぬるい調子でそういった。何が、だめー、だ。
あの・・、と言い掛けた私の口をふさぐ手。
「静かに。」私はますます意味が分からなくなる。うちの教授は、いつもめんどくさそうに、眠そうに話をするいまいちさえない40前の男だ。ぬっと体がでかく薄よごれた白衣をきてしょっちゅうこの部屋のソファーで寝泊りしている。さえないけど、40になる前に教授になっているのは立派な研究バカだからで、先月、某ケミカル系専門誌に載った論文が巷じゃ評判である。だけど、専門分野のほかはよれよれでしょうもない中年なのだ。
「夏目サン、今日スカート短い。」
狭いロッカーの中、耳元で彼の低い声がそう言った。ふざけた口調だ。普段彼は夏目さんなんて私を呼ばず、にゃんこ、と呼ぶ。彼の中では、夏目=漱石=我輩は猫である=にゃんこ、なんだそうだ。
セクハラ・・・・そう言おうとした私の口を、しっ、と言ってまたふさぎなおす。
後ろから回されていた手が、スカートから出ている足を撫でる。彼の腕がこの狭い箱の壁に当たってガタンと無機質な音を立てるのにドアは開かない。
「目がいってしょうがないんだよね、さっきから。」
彼は普段からセクハラまがいなことを言って喜ぶから、いつも冷たくあしらっている。だけど、この状況。あしらう余裕なんて私にはない。
「先生、ちょっと・・・待ってください。」
「何を待つの。」
「いや・・・・だから、ここから出し・・」
言葉の途中でうなじを舐められて、私は続けられなかった。彼の息を感じる。そのまま、その舌は耳にたどり着き、そこを舐め、噛んだ。無精ひげが私の肌をかすめている。
「ゃぁっ!」
彼はそんなことをしながら、ふふ、と笑うからなお息がくすぐったくて、身をよじろうとしたけれど、相変わらずがっしりと抱え込まれて私の体はびくともない。
「いいねぇ、なかなか。」
彼が興味を示している時の口癖だ。彼の呼吸が早い。舌と唇が私の首周りを執拗に追い回す。私は既に、意味を成す言葉を発していない。口をふさいでいる手がゆるく動いて、私の口に指が侵入していた。
「んんっ・・・・ぁふ、やぁ・・・ん。」
「口の中、熱いよ。」
足を撫でていた手は何のためらいもなくスカートに入り込み、器用に下着を引っ掛けて太腿の途中までおろした。慌てて閉じようとした足に、すかさず彼の手が割り込み、腿の内側からぐっと力をこめられた。強引に割られた足は閉じることはできず金属の壁を蹴った。ほんとうに狭い。バランスをくずしてかろうじてある空間で前のめりになった私は、彼に足の内側を撫で回されて既に朦朧としていた。
「にゃんこの目が誘ってんのかと思ったんだけど、違った?」
何を馬鹿なことを。ささやくような声はゆるく私の耳を刺激し体に浸透していくけれどわたしが、強く首を横に振ると、あぁ、違ったの、とどうでもよさそうに言う。なんとか彼を振り返って、そのしつこい舌を避け抵抗しようと物を言いかけると、口の中の指がじゃましてうまく言葉にならなかった。
「いや、その顔はやっぱり誘ってる。」
彼はそう言って、反対側の首筋にむしゃぶりつき、足を撫で回していた手で私の股間を撫でた。