淫魔戦記 未緒&直人 2-9
「ジャジャーン!最新号、ゲット〜!」
「きゃ〜っ、伊織様!」
「あ〜ん、見せて見せてぇ!」
たちまち大騒ぎになる女子一同。
苦笑いして敬遠しようとした未緒も、輪の中に巻き込まれた。
−あれから一週間。
三日ほどは身の回りがうるさかったものの、直人と桂子のアドバイスをもらって新聞部にインタビューを載せた号外を出してもらう事で事態は解決した。
『人間は隠すから知りたがる。オープンにしてしまうのが騒がれない一番の近道だよ』とは直人の言だが、確かにそうだった。
別に隠さなければならないほどまずい事をしている訳ではないのだし。
「いや〜ん、やっぱりカッコイイ〜!」
「あ……」
騒ぐ周囲を尻目に、未緒はそのページを凝視するはめになった。
目がプロフィールを追い掛ける。
『伊織
19××年 5月 29 日生まれ 23歳
身長186センチ
体重73キロ
コメント/最近の楽しみ はドライブですね。車を 走らせるの、好きなんで すよ』
「この人……」
この前初めて見た時は体調のせいで詳しく見ていないから、分からなかったが……。
「同族……?」
目に籠る力が、人間のものではない。
それが、雑誌というメディアを通しても分かる。
「ねえ、桂子」
制服の袖を引っ張って注意を促しながら、未緒は尋ねた。
「この人、有名なの?」
桂子がずっこける。
「何であんたはそう芸能音痴なのっ。伊織っていったらこの女好みのイイ男満載の雑誌でこの一年ばかりモデルをやってる、ずば抜けてイイ男よ」
「へえ……」
−会う必要があるかも知れない。
漠然として不安にも似た予感が、未緒の全身を貫いた。
「ああ、いたわね藤谷さん」
そのシリアスさを吹き飛ばすように、声がかかる。
いつの間にか、背後に綾女が立っていた。
直人に叱られてからは、鳴りをひそめていたのだが……。
警戒する未緒に、綾女は殊更に友好的な笑みを浮かべて言う。
「ちょっとお話があるの。放課後に瀬渡橋の河川敷まで来てくれない?」
「え?」
「頼むわね」
−綾女が行ってしまうと、一同は顔を見合わせた。
「どう思う?」
「怪しい」
「罠よ罠」
綾女が未緒に喧嘩を吹っ掛けたくだりは知られているので、一同はそんな予想を口にする。
「それならそれで、すっきりするわ」
未緒の発言に、周囲がぎょっとした。
「ああいう理不尽な妨害が二度とできないよう、きっちり言い含めなきゃ」