特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.4-1
清爽とした空がとても高い。白く柔らかな雲は視界の端で確認する程度。
遮る物は何も無く、眩しく照り付ける太陽がジリジリと肌を焼いてくる。
夏、真っ盛り。
ついこの前まで灰色の空だったのが嘘の様だ。
「じゃ、これで解散ッ」
締め切ったブラインド。薄暗い会議室から一人、また一人と姿を消していく。
N高3年5組。別名「特進クラス」その中の理系の生徒達だ。
act.4
《二人の距離》
「あーもぉっ、どうしよッ」
誰もいなくなった会議室で、ぽつりと少女が呟いた。
短めの紺色スカートから伸びるしなやかな長い脚。
静まり返る会議室の長机に腰を下ろし、ますめ状の真っ白な天井を見上げる。
ショートカットの黒髪に、涼やかな一重の黒い瞳。化粧っ気はサッパリだが、健康的なオレンジ色の唇が格好良い。
薄い肩に細い腰。腕も脚も長い。加えて胸も薄かった。
吉田 桜(ヨシダ サクラ)。自他ともに認める恋愛とは非常に縁の薄いスポーツ少女、である。
「でっけー独り言」
ドア側を向くと、片手にじゃらじゃらと鍵を持った少年が立っていた。
陽の光を浴びた髪は赤っぽく、緩く波打つ毛先が揺れる。
着崩したワイシャツにえんじ色のネクタイ。紺地のズボンに包まれた、細い脚を組んで立っていた。
「矢田はレポートどうすんの?」
桜が少年に近付く様に歩みを進める。桜のスラリとした背丈は170の大台を越していた為、少年より少し高い。
少年は、矢田 智春(ヤダ トモハル)。
クラスの中心的人物で、流行物に敏感な話題性溢れる少年だった。
「やっぱりさ、えっちするなら格好いい奴じゃないと嫌じゃん」
ぺろっと紅い舌を出して悪戯っぽく桜が笑う。
そう、事の発端は数時間前に逆上る………。
化学の時間だった。担当教諭の大河内が、2週間後に迫った期末テストを説明しだしたのだ。
その時は至って何事も無かった。だが、課題と称されたレポート用紙を見た瞬間、全ての思考回路が強制終了…ブラックアウトしたのだ。
課題と称された淫らな実験。誰もが我が目を疑った。
しかし誰も文句は言えない。
巧妙に張り巡らされた大河内の罠に、特進クラス理系の生徒15名は立ち向かう事を余儀無くされたのだ。
そんな、正直どうにもならない最悪の状態を何とかすべく、彼等は放課後の会議室で作戦を練っていたのである。
「じゃあさ、桜ちゃん」
会議室の扉を締めながら矢田が言う。
西日を浴びて真っ赤に染まった矢田の髪の毛が、桜の目の前で揺れている。