ふたり【大・波乱・結】〜波乱が招いた‥‥あかねとのキス〜-3
―…‥…―
『先行ってるから!』
ってことは多分、玄関で待ってるよな?
まさか、家まで帰ってるなんてことはないよな?
‥‥うん、エリカだったら玄関で待ってるはずだ。
さぁ、ふたりを探‥そ‥う‥‥って人多いな!?
うわっ、しかもなんか見られてるし……
うわっ、告白してきた子までいるし‥気まずっ
‥‥あれ!?
ふたりとも……いない?
‥‥あっ、外か?
これだけ人がいたら、俺なら外で待つかもな。
‥‥ん、あれは……
‥‥あかねか?
え?
なんで‥ひとりなんだ?
エリカは‥‥帰った?
動揺して靴紐を結ぶ手が震える。やっとの思いで履き替えた俺は、弾けるように玄関を飛び出した。
「──あかねーっ」
あかねは満開の桜を見上げていたが、俺の声に気付いて手を振ってきた。
エリカがいない事に動揺しているせいなのか、大した距離を走ったわけでもないのに息が切れている。
「お兄ちゃん、どうしたの?そんなに慌てちゃって」
あかねは不思議そうな表情で俺の顔を下から覗き込む。
俺は少し乱れた髪をクシャッといじり、息を整える。
「──あかねっ、あのさ」
「エリカは?」と聞こうとした、その瞬間だった
『 先輩!! 』
背後から、なんとなく聞き覚えのある声。
あかねは増々キョトンとした顔で、俺の後ろに居るであろう人物を見ている。
「―…‥!!?」
振り返ってみると、声の主は今日の昼に告白してきた子だった。しかも、目にたっぷりと涙を溜めている。
「先輩! やっぱり、その人なんですか!? 先輩の好きな人って――」
睨むような目付きであかねを指差す。
俺はどう答えたらいいのか分からなくて、チラっとあかねに目をやった。
するとあかねは、明らかにさっきとは違う表情になり、頬を引き攣らせ「…え?…え?」と繰り返していた。
その視点は目の前にいる女の子ではなく、もっと遠くに向けられている。
俺をサァーっと血の気が引く感覚と、ブワっと脂汗が出る感覚が同時に襲った。
さっき玄関にいた集団がこっちに迫ってきていたからだ。物凄い威圧感。
俺達はあっという間に桜の木を背にした状態で囲まれた。
逆光で陰になっている彼等の顔に、凄まじい恐怖感を覚える。
怯えるあかねを引き寄せて、震える喉から声を絞り出した。
「‥‥なんだよ」
震えたおまけに裏返ってしまったが、この際そんなこと気にしてられない。
あかねは俺の制服を震えた手で握っている。
俺のあかねを掴む手にも自然と力が入る。