記憶のきみ3-1
あの日から数日。
自宅でぼけーっとしている俺。
休日はいつもこんな感じだ。
なんかすげー普通だよな、俺。
なぜか周りからは普通じゃないって言われるんだけどな。
ピリリリリ…
ん?誰だ?めずらしい。
ピリリリリ…
『んっ…』
ベッドから起き上がってケータイを手にとる。
『………』
思いがけない人物からの着信だった。
『……もしもし』
「もっ!もしもし!あの!明石です!その!わかりますか?明石悦乃です!」
『………』
すごい慌てようだな。おもしれー。
『わかるよ、なに?』
俺が冷静に返すと、どうやら悦乃も落ち着いたらしい。
「よかった……あの、灰慈くんに聞きました。定期見つけて拾ってくれたの、瞬くんなんですね」
灰慈のヤツ…しっかり連絡とってんだな。相変わらずなんて野郎だ。
『……まあ』
「やっぱり!本当にありがとうございました!ちゃんとお礼が言いたくて…あの…本当に…」
『ばーか』
「……へ?」
ポカーンとした声を出す悦乃。
『お前さ、何回言ってんだよ』
「……え?」
『もうこの間イヤっつーほどお礼言ったろ』
「……でも」
『あと敬語もやめろ。お前と俺は対等だろ』
「………対…等」
『そうだ。よろしくな、悦乃…ちゃん』
ああ…今気付いた。
また変な癖が出てしまった…
俺はこういう状況になると、いつもつい熱くなる。
『ばかみたいだな、俺』
はは、と苦笑いする。
「そんな!うれしい。ありがとう、瞬くん」
『……それでいい。この間の帰り際んときは、普通だったのにな』
「……あれは…つい…」
『ま、仲良くしような』
「うん!仲良くしようね!」
『おう、で、用はそれだけ?』
「あ…うん」
『そうか……あ…』
ふと、あのことが頭をよぎった。
俺は彼女のことを知っているかもしれないのだ。
「どうかしたの?」
『………悦乃ちゃんさ…』
「……」
『俺のこと…昔から知ってないか?』
「……え?」
『俺……明石悦乃って人を知ってる気がするんだ』
「………」
『名前だけなんだけど……悦乃ちゃんを見ても結局思い出せなかった』
「………私は」
『俺のこと……知らないか?』
「…………ごめん、知らない」
『………そっか』
「………うん」
なんだか重苦しい雰囲気が流れる。
『悪かったな、変なこと聞いて』
「んーん!じゃあまたね!」
『ああ、また』
そう言って電話を切った。
『………マジで知らないみたいだな』
ボソッと呟くとまたベッドに寝ころんだ。
『明石……悦乃』
「常葉……瞬くん」
悦乃は一冊の古いノートを読み返していた。
「間違いない…よね」
そのノートに間違いなく記されていたもの…