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『運命〜君の居る場所〜』
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『運命〜君の居る場所〜』-6


昼過ぎに起きた私達は、駅の近くでラーメンを食べて別れた。
別れ際、小さく「また近いうちに会おう」と平が言った。
「そうね。」
同じくらい小さな声で頷きながら、もうしばらくは会わないだろうと思った。
恋じゃないのだから――。

新宿で乗り換えて中野の自分のアパートまで、体が鉛のように重かった。
私は振られたのだ。
恋じゃなくても、恋であっても……。
誰にも受け入れられない自分。
価値のない自分。
なんだかもうどうでもいい……今死んでも、別にいいや。
子供がいるわけでもないし、やらなければならない仕事があるわけでもない。
今私は一番、社会から責任のないところにいる。
今が「死ぬ」一番のチャンスかもしれない。
そんなことを考えながらアパートの階段を、ブーツの音を鳴らしながら駆け上がると、粗大ゴミのように大きく黒い物体が私の部屋のドアの前に転がっていた。
「誰?」
おそるおそる尋ねると、その大きな物体はのっそりと動き、私を見た。
「どこ行ってたんだよ。携帯も繋がらんし。」
不機嫌そのものの声。
「桂介っ」
来てくれたんだ……。
「終電なくなって途中からぶっとおしで、タクシー」
桂介の声も顔も怒っている。
でも手が、両腕が、私の方に開かれていた。
途端、今まで押し殺してきた何かが溢れてきた。
私はぶつかるようにその胸に抱きついた。
(抱きつける自分でよかった。)
頭の中で自分勝手な呟きが漏れた。
私のために用意されたそれは、心地良く、温かかった。
今度こそ、飲み込むことなく私は泣いた。
ただ泣いて、泣いて、泣いた。
会社を辞めてから初めて、流すことの許された涙だった。
桂介がそっと私の背に腕を回してくれた。
「ありがとう。ごめん。大好き。」
ただ、そこに自分の為の居場所がある。


平との関係が恋じゃなくてよかった。
初めて、そう思えた。

(終)


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