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『運命〜君の居る場所〜』
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『運命〜君の居る場所〜』-5

平は少し寂しそうに笑ってから、小さく頷いた。
意気込んだ割に大したものは作れなくて、冷凍のピザをレンジで温め、サラダとスープを作っただけだったが。
それでも平は美味しいと言って全部平らげてくれた。
「他に何をしたかったの?」
おどけたように尋ねてくる平に
「ビデオを並んで見る。」
私は迷いなく答えた。
「DVDだけど……」
平が持ってきたのは、平が一番好きな映画。
両親を殺し屋集団に殺された小さな女の子。凄腕のしかし学のない別の殺し屋がその復讐を手伝うという話。
予想どおり、最後凄腕の殺し屋は女の子を庇って死んでいく。
根無し草のようだとかつて語った彼のために、女の子が鉢植えの植物を土に植えているシーンでその映画は終った。
女の子と凄腕殺し屋の間には確かに愛情があった。
女の子が女の子と呼べなくなる歳になったら、彼らは恋人となったかもしれない。
けれども、今、そこにあったのは
「恋だったのかな?」
ふとした疑問に、
「近いけど、微妙に違うものだろ」
平は簡潔に答えた。
「じゃあ……」
なんなの?という問いは、しきれなかった。
時計を見ると午前2時を過ぎていた。
丑三つ時。
私は平の目を覗いた。
平は見事とも言えるタイミングで目を逸らした。
私はゆっくりと平の眼鏡を外した。
指が笑えるほど震えた。
もう一度、平の目を見た。
もう平は、目をそらさなかった。
閉じられた電子ピアノの蓋の上に眼鏡を置く。ガチャンと少し大きな音がした。
両手で平の頬を包み込み、右に少し顔を傾けながらその唇に唇を一瞬だけ押し当てた。
平は全く反抗しなかった。
けれども反応もしてくれなかった。
哀しくなって離れると、引き寄せられた。
ぎゅっと。
体の力も、心の緊張も、全てトロけてしまいそうになった。
しかしそれも一瞬の事で、平は私の肩をグイっと自分から遠ざけた。
それからオモムロにじっと私の目を覗き込む。
「これは、恋じゃない。」
一言一言を区切るようにはっきりと平は言った。
確信に充ちた声だった。
オブジェクションを許さぬ響き。
なんでだろう。
納得なんてしたくはなかったけど、私はそれを知っている、と思った。
でも、知りたくなんてなかった。
平の口からなんて聞きたくなかった。
“じゃあなんなの?”
したくてたまらない質問をぎゅっと飲み込む。
“恋じゃなくてもいいじゃない”
したくてたまらない反論も飲み込むしかなかった。
「指を……」
最後の我儘に、平は黙って左手を差し出した。
触れるくらい浅く、指を合わせた。
幸せだった。
なのに恋じゃないなんて―――。
「上手く言えないけど、生き別れの双子の妹みたいな感じ」
平はそんなことを言った。
上手く言えないのならば、そんな残酷なこと、口にしないで欲しいと思った。
それに双子の妹というのは微妙に違う。
もっと近い……生き別れの自分自身のような……
それを昔読んだ絵本では「恋」だと表現していたことを思い出し、思考を停止することにした。
それでも、私は今日の日のことを繰り返し繰り返し後悔するだろう。
いや、もう既に後悔していた。
私達はそのまま眠りに落ちた。


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