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■LOVE PHANTOM ■
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■LOVE PHANTOM■四章■-2

「俺はお前を愛している。」
そう言うと叶は目を細めて、彼女の流す涙をそっと拭ってやった。すると、風はすぅっと叶の周りを包むようにして吹き抜けた。
(ありがとう。嬉しかったよ。本当だよ・・。もしもその感情が叶の感情なら・・・。)
そう思ったときだった。一瞬、気が遠くなったかと思うと、靜里の目の前にある情景が変わった。それはまるでスライドを一瞬のうちに変えられるのとよく似ている。
靜里の目には、叶も、もう一人の自分も、ポプラも、映ってはいない。あるのはガラスケースの中にあるクリスマスツリーだけだった。
靜里は静かに目を閉じ、額をガラスの壁へとあてた。ひんやりと、冷たい空気が彼女の体を流れてゆく。靜里は額をそのままに、ゆっくりと目を開け、
「立ったまま夢を見るなんて・・疲れてるのかな。」
と苦笑した。


靜里の足は、気がつくと大学のキャンパスへと向いていた。何げなく街を歩いていたつもりなのに、と靜里は思いながら辺りを見回す。すると、昼間とはまた、違った景色がそこに広がっている。
先の見えない芝生、風に吹かれる度にざわざわと揺れる数本の木々、そして幾つかのベンチのシルエット。どれも、気味の悪いものに化けてしまっている。
靜里はキャンパスの入り口から、その情景を目にしていた。僅かな時間、帰ろうか、いやせっかく来たのだからたまには違った雰囲気を味わうために、少し中を散歩してみようか、と靜里は迷ったあげく、彼女はしばしの散歩を楽しむことに決め、キャンパスの中へと踏み込んだ。この大学のキャンパスは、他の大学と比べて一回り大きく、しばしば学園雑誌に載ることがあった。そのため、キャンパスの快適さや、見た目につられてここへ入学したという者も少なくはなかった。
「すごい。今にも幽霊が出そう。」
両腕で震える体を抱きながら靜里は、キョロキョロと辺りを見渡す。
「でも・・暗いところで見ると月の光がとても綺麗。」
そう言うと靜里は空を見上げた。暗い夜空には、不気味なほどの輝きを見せる三日月が靜里を見下ろしている。

 十分ほど歩いただろうか、いつの間に霜が降りたのか、靜里の髪は湿って冷たくなっている。靜里は自分の髪の毛を二度、三度触れながら軽くため息をついた。
「やだ、風邪ひいちゃうじゃない。」
べちゃべちゃと、柔らかい土の感触から、地面もさっきより多少泥濘んでいるのがわかる。靜里は下を見たまま、考えた。
「散歩終わり。帰ろう。」
と、靜里が引き返そうとしたその時。一瞬、男性の声が聞こえ、靜里はぴたりと足を止めた。恐る恐る後ろを振り向いて見る。理由の分からない恐怖から、ジンワリと、体の裏側まで鳥肌が立つような心境だった。
「だれ?」
誰がいるとも分からなかったが、とりあえず声のした方に視線を向ける。
返事はない。
「気のせいか・・。」
そう言って靜里は、ほっとため息をついて胸をなでおろす。が、その瞬間だった。
「ハロー。お嬢さんこんなところで何してるのさ。」
さっき声のした方から、再び男の太い声が聞こえてきた。驚いた靜里は息を飲んで一歩後ずさる。すると、一歩誰かが自分に向かって近づいてくるのが分かった。
しかもそれは一人ではなく、
「真夜中の一人歩きは危険だ。」
二人だった。
「だれ?。」
震えている呼吸を、必死に落ち着かせながら靜里は、声を出した。本当はこのまま家まで走り去ってしまいたかったのだが、何せ震えが足の先まで行き届いているのだから、うまく走れるはずかない。
靜里はもう一歩後ろへ下がった。
男たちもそれに合わせて距離を詰めてくる。
「何だよ。何逃げてんだよぉ。ん?。」
さっきから、独り言の様に話しかけてくる男は、赤いパーカーを羽織り、意外にも小柄で、背は靜里とほとんど変わらない所にあった。そして太い声には、決して似合うとは言えないほど顔付きも幼い。 しかし、もう片方の男は違う。190は優に越えているだろう、背は高く、肩幅もまるで衣紋掛けの様に真っすぐと広い。
顔も隣とは比べものにならないほど大きく、靜里を見ているその目は、身動きできない、ひ弱な動物に、今にも飛びつこうとする野獣の目によく似ている。
靜里はごくりと唾を飲み込んだ。


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