刃に心《第7話・舞台という名の戦場》-3
「チョコ先輩!」
「千夜子殿!」
疾風と楓が驚いているのにも構わず、袋いっぱいのチョコレートを差し出した。
「絶対見に行くからな♪頑張れよ♪」
ここでようやく千夜子は周囲に目を向けた。
「げっ…テメェは月路!」
「あら、功刀さん。お久しぶりですね」
にっこりと微笑む朧に対して、警戒心丸出しで睨む千夜子。
「そういや…テメェ、演劇やってたんだよな…」
拳を握り締め、問答無用で殴りかかろうとする千夜子。
「ここであったが、百年目だあっ!」
問答無用で千夜子の拳が朧に迫る。
少々、古い台詞だが、千夜子は気にしない。
「いいんですか?あのこと話しても♪」
千夜子の拳がピタリと止まった。額からは大量の冷や汗が滴る。もちろん、千夜子の額からである。
「くっ…性悪女…」
「くすくす♪意外とかわいいですからね功刀さんは♪」
苦々しい表情で拳を下げ、乱暴に近くのパイプ椅子に座った。
「…アタシも見学する」
朧に対する確認ではなく、宣告。
袋を漁り、箱からポッキーを取り出し、煙草のように口に咥えた。
「…お知り合いなのですか?」
楓が千夜子に尋ねた。
「…一昨年、クラスが一緒だっただけだ。じゃなきゃ、あんな性悪なんかと知り合いになるもんか!」
ガリガリとポッキーを囓りながら、千夜子が不機嫌さを露わにする。
「くすくす♪疾風さん、どこまで読み終わりましたか?」
「あ、はい。俺のスタントが必要なところまでは。最後はまだですが、あらすじは掴みました」
「では、いきましょう。霞さん」
「は〜い」
いつの間にか、準備運動として、柔軟を済ませていた霞が呑気に返事をした。
「じゃ、私が苦無で斬りつけるとこから」
「OK」
そう言うと、懐から黒々とした苦無を取り出した。
「ちょっと待て。本物だろ、それ」
「監督指示。ウチの監督、本物嗜好だから」
疾風は朧を見た。
笑顔で親指を天に突き立てる朧がいた。
「いいでしょ。いつものことなんだし」
「…お前が言うな」
仕方なさそうに疾風も苦無を取り出し、構えた。
「疾風、台本読ませてもらうぞ」
「いいよ、ってちょっと待てコラ!」
ガキンと音が鳴り、霞が斬り込んできていた。
「甘い!一度でも幕が上がれば、そこは舞台ではなく戦場なのよ!戦場で余所見をしていてもいいと思ってるの!そんな軟弱な気持ちならば、帰れぇ!」
さらに、空いた左手で手刀。扇型の残像を残しながら、疾風の首筋を狙う。
「上等だ!」
手刀をいなし、疾風も負けじと苦無を振るう。
苦無同士がぶつかり、重厚な鋼のメロディーを奏でる。