投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

H.S.D
【学園物 恋愛小説】

H.S.Dの最初へ H.S.D 33 H.S.D 35 H.S.Dの最後へ

H.S.D*11*-2

笑いどころが分からないのはあたしだけだろうか。
あたしの周りには、本当にオバカしかいないのだろうか。
「そうだよ」
頭を抱えるあたしの耳元で不意に好美の声がした。
「ぅわっ。何で…!?」
「顔に、何でオバカしかいないんだろうって書いてある」
怪しく含み笑いをする好美。まぁ、異常に大爆笑している二人の横で、頭を抱えるあたしを見れば、好美ならそれくらい分かりそうなものだ。
しかし、オバカの対象に自分も入っているということまでは分からなかったらしい。
「…オバカ」
「何か言った?」
「何も」
「あ、そう」
好美は納得したように頷くと、するすると頭の三角巾を外した。
「好美、調理室行ったんじゃなかったの?」
「ん、ちょっと気になることあって戻ってきたの」
「気になることって?」
「うん、瑞樹のことなんだけど…」
矢上?…何だろう。
好美は笑い合う二人の間に割って入り、矢上と向かい合った。
「津川ちゃんどうしたの?」
矢上が首を傾げる。
「瑞樹さぁ、昨日病院にいなかった?」


―病院!?


「…えっ」
「昨日、放課後用事あるからっつって、学校終わったらすぐ帰ったんだよね」
「…うん」
矢上の様子がおかしい。冷静を装ってるけれど、明らかに動揺している。いつもの矢上じゃない。
「なのに、七時近くに病院にいるって、どういうこと?」
あたしはいても立ってもいられなくなって、好美に
「何で好美が知ってんの?」
と聞いた。
好美は壁に寄り掛かって、他の二人にも説明するよう、最初から詳しく話しだした。
「音羽には言ったけど、あたしのじいちゃん、入院してるんだ」
あたしは頷き、矢上と樋口は「そうなんだ」と呟いた。
「それで昨日、六時で文化祭準備終わってからお見舞いに行ったの。で、七時前にじぃちゃんの病室出て、一階のロビー通って帰ろうとした時なんだけど」
好美が矢上を見た。
「瑞樹が上に行くエレベーターに乗ってたの。あっと思った時には閉まっちゃったんだけどね」
矢上…病院…。あたしはこの前、矢上から聞いたことを思い出した。
矢上は頭がいいのに、この高校を選んだ理由。それは「病院に近いから」だった。
「三時間半も病院で何してたの?」
目を伏せていた矢上が顔を上げた。
「…人違いじゃない?」
「は?」
好美が眉をしかめる。しかし矢上は、いつも通りの飄々とした口調でぺらぺら話しだした。
「実はオレ、バイトしてんの!学校には内緒だから言えなかったんだ。いつもは六時半からなんだけど、昨日は急に四時からバイト入っちゃって」
矢上は人差し指を唇にあて「秘密ね」と微笑んだ。
「へぇ、そうなんだ。世の中には似てる人がいるもんだ」
「あっ、世の中には自分とそっくりな奴が三人いるって聞いたことあんぞ」
「樋口は三人もいらないっ。むさ苦しそぉー」
「…好美が三人いたら世の中は確実に破滅すんぞ」
そんな言い合いが教室内に響き渡り、みんなクスクス笑っているが、あたしの耳には入ってこない。さっきから矢上が時計を気にしていることに気付いたからだ。
三時半であたしの学校は放課後をむかえる。
あたしは長針を見つめながら、カウントダウンを始めた。


H.S.Dの最初へ H.S.D 33 H.S.D 35 H.S.Dの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前