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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*11*-1

「実行委員!どーよ、これ。俺、ナイスチョイスじゃねぇ?」
『ある物』を前にして、樋口が胸を張った。
「どーよって…確かにリアルだけど。何に使うの、これ…」
机に置かれたそれを、あたしはツンツンと突いた。
これのためにあたしはあんだけ一生懸命、角に色を塗ったのかと思うと虚しくなってくる。
「飾るんだよ!だってこれが一組の目玉だろ?」
「…これがぁっ!?!?」
あたしは飛び上がった。まさか、この『鹿の剥製』が喫茶店のメインだなんて思いたくなかった。
喫茶店なのに鹿の剥製。これでは、樋口の思考回路を疑わざるをえない。
「なぁに、言っちゃってんの?喫茶店のメインが何で鹿の剥製?しかも、リアルなのがまた気持ち悪さ倍増よ」
あたしが一言言ってやろうと思った時、ガラッと音を立てて教室の扉が勢い良く開いた。そこにはエプロン・三角巾姿の好美率いる『調理班』が並んでいた。
ザッザッザッと近づいてくる調理班という名の女子軍団。正直、威圧感たっぷりで恐い。
「見なさいな、食いなさいな!あたしたちの料理をっっ!!」
好美が剥製の隣に料理が乗ったおぼんをドンッと叩きつけた。
「…………!」
「感想はっ!?」
キラキラしたたくさんの瞳があたしに向けられても、あたしは声が出ないほど驚いて何も言えないので、勘弁してほしい。
なぜなら…
「喫茶店だっつの!」
素晴らしい創作料理がおぼんの上に乗せられていたのだ。大きな鳥の丸焼きに緑色のソースやら赤い実やらが乗っかって、輝いている。が、却下。
「えー、これ超スゴくない?」
軍団から不満の声が上がる。
「すごいけど、あたしたちのクラスは高級レストランじゃなくバイキング式の喫茶店なんだって…」
「あ、そっか」
気付くのが遅すぎる。
「あ〜あ、どうしよ…」
女子軍団が落ち込む横で、とてもノー天気な声がした。
「これ、すっごいおいしいよ?」
ハッとして声の方を見ると矢上が人差し指でソースをすくい、口へ運んでいた。
「何やってんの!?」
「勿体ないから食べてんの」
見りゃ分かるって。
しかし、女心とは不思議なもので、呆れるあたしとは違い軍団はキラキラした目で矢上を見ていた。
「本当に?」
「うん、超おいしい!」
そう言う矢上を見て、あたしは『スマイル0円』というフレーズを思い出した。「でね、俺から提案なんだけど」
矢上は鹿の剥製モドキを指差す。
「コレに合うような料理作ってほしいんだ。例えば…ナポリタンスパゲティとかミートボールとかね!」
とどめの0円!
軍団は
「はーいっ」
と語尾にハートマークが付くような返事をすると
「やる気出たあぁあぁっっ!!」
と叫びながら、教室を出ていき、廊下を駆け抜けていった。
あたしの記憶が確かなら、あの子たちは矢上を恨んでいたはず。しかし、この反応はなんなんだ…。
ある意味、矢上が実行委員で良かったのかもしれない。
「手慣れてるねぇ」
「ふふっ、まぁね。これ、飾るのか…」
矢上はモドキから樋口に目を移した。
「なっ何だよ!?」
矢上に見つめられて訳もなく慌てふためく樋口。
矢上はそんな樋口を見てプッと吹き出し
「気持ち悪いくらいリアルに作れるなんて、まじですげぇと思うよ」
と言った。
最初は顔をしかめていた樋口だったが
「…ありがとよ、実行委員!」
と言って、少し笑った。
何だかよく分からないけれど、友情みたいなものが見えた気がした。
「ところでそれ、誉めてると受け取って良かったんだよね?」
樋口が矢上に問う。
「さあ?」
見つめ合う二人。を、不思議そうに見つめるあたし。
暫らく見ていると急に二人で「アッハッハッハ!」と笑いだした。


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