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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*10*-1

時間割りの変更で、午後の二時間は、全て文化祭作業に当てられる。そして、そのまま放課後に突入し、夜遅くまで残って作業をする。そんな日が、一週間続いた。


今は放課後。もうすぐ六時になろうとしている。
しかし、教室には普段通りクラス全員が残っていて、慌ただしく動いていた。
「ちょっと!ハサミどこぉ?」
「あれ、ノリはっ?」
「茶色の絵の具持ってる人いるー?」
「出来上がったのはこっちに置いといて、新しいのに取り掛かって!」
そんな声が飛びかう。
「何かさ、いいね、こういうの」
一緒に『鹿の角』をダンボールで作っていた矢上が、黄色の絵の具を塗りながら独り言のように呟いた。
「こういうのって?」
一瞬、矢上の動きが止まった。が、またすぐに再開した。
「こう、クラスで一個のものを作るっていうの?みんな熱くなっちゃって…笑える」
それは誉めているのか馬鹿にしているのか…?
「笑えるって何それ」
矢上が顔を上げた。
目が合う。
あたしはただそれだけなのに、何だか胃の辺りがくすぐったくなった。
「オレも一緒に熱くなっちゃってさ、こんな気分初めてだから可笑しくて」
そんなあたしの心情も知らず、矢上は恥ずかしそうに目を背けた。
なんだ。矢上も楽しんでるんだ。
あたしも自然と笑みが零れる。
「矢上は何事にも冷めてそうだもんね」
あたしも矢上を見習い、手を動かす。
角だけでもでかいのだから、本体は相当な大きさになるに違いない。
「実際そうだよ。前にいた学校はみんなオレみたいだったもん」
そういえば、矢上が前の学校にいた時の話を聞くのは初めてだ。
「へぇー。じゃあ、文化祭とかつまんないでしょ。そんなのばっかじゃ」
「ていうか…無かったもん、こういうの」
「…うっそぉ!」
文化祭が無い学校ってあるのだろうか。
「ホントホント!ひたすら勉強ばっか」
ひたすら勉強ばっか…あたしの人生の中で、一生耳にしない言葉だと思っていたのに。
「ひたすらって、言い過ぎじゃないの?」
あたしの言葉に、矢上は否定の意味を込めてひらひらと手を降った。
「まじだから。オレが前にいた学校、進学校だったの」
「進学校!?」
あたしはつい大声を上げてしまったが、周りがざわざわと騒がしいのでそれ程目立ちはしなかった。
「まさかこないだのテスト…」
「クラス順位は一位だったよ」
「んなっ…!」
どんどんBGMが聞こえなくなっていき、意識が遠ざかる。が!あたしは必死で抜けていく魂を繋ぎ止め、頭をぶんぶん振った。
「一位…」
「イエイッ!」
矢上は嬉しそうにピースサインをした。
しかし、あたしは授業中の矢上の姿を思い出して、ある疑問が浮かんだ。
「いっつも寝てるかメールしてるかどっちかじゃん!授業なんて聞いてなかったじゃん!!」
「あぁ、今やってるとこ、前の学校でもう終わってるんだ」
あたしの疑問はあっさりと解決した。
「じゃあ、何でこの学校に来たの?もっと偏差値高い学校はあるのに…」
あたしの高校の偏差値は低くはないが、高いわけでもない。
ここの生徒の七割は就職希望者だ。学校自体が就職のための授業を組むので、数学や理科などは必要最低限しかしない。逆に簿記、法律、日本史、政治経済など専門的な授業がたくさんある。そのおかげで高卒でも有名な会社に勤めることが出来るから、受験の倍率は毎年高め。
就職には有利だが、進学希望者にはちょっと不利な高校なのだ。


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