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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*10*-2

「それだけ頭良いのに、何で?」
矢上は「う〜ん…」と唸りながらも、手は忙しなく動いていた。が、動きが止まり、矢上は遠くを見つめた。
「病院に一番近いから…かな」
また動きだす。
あたしが「どうして?」と聞こうとしたその時
「ちょっと実行委員。どっちかジュース買いに行くの付き合って!」
好美があたしの後ろから身を乗り出してきた。
「何本買いに行くの?」
あたしが聞くと好美は手を腰に当てて叫んだ。
「ジュース飲みたい人ぉ〜!ただし、自販機の百円のヤツのみ」
バサバサバサッとたくさんの手が挙がる。便乗してあしも挙げる。
それを好美が「いち、に、さん…」と数えて、最後に「さんじゅう」とあたしを指差した。
「三十本も持ってくんの大変だな…。仕方ない、瑞樹、行くよ」
好美は矢上の肩をポンッと叩いた。
「はいはい」
矢上は笑いながらゆっくり立ち上がり、好美についていく。
好美は
「後で百円ずつ集めるからね!」
と言い残し、教室を出ていった。
一人で作業再開。
あたしは角に色を塗っていく。
その時、不思議な現象に襲われた。


周りの声が必要以上に耳に入ってくる?


さっきまで、何にも聞こえなかったのに。
何にも聞こえなくなるくらい、楽しかったのに。
急に…寂しい…。
「何か瑞樹くん変わったよね〜」
「思った!性格良くなった?」
「うん。ムカついてたけど、実はもうあんまり気にしてないんだ」
「あたしも。むしろ好感持てる!」
こんな会話まで聞こえてくる始末。
何だろう、この気持ち。矢上がクラスに馴染めるようにしたのは、他でもないあたしじゃないか。なのに、どうして『不安』になるんだろう。
確か前も、こんな気持ちになった。
あれは、そうだ。
矢上に大事な子がいるって分かった時だ。
あたしは勝手ながらも、矢上に一番近いのは自分だと思っていた。だけど、違った。だから、せめて笑顔にさせてあげられるようにと思っていたけど…その役はあたしじゃなくてもいいのではないだろうか。
楽しんでもらえるように。クラスの子とも仲良くなってもらえるように。だけど、もしそうなったら、矢上にとってあたしは不必要な存在じゃないだろうか。
矢上が遠くに行ってしまうみたいで、なぜか寂しい。矢上を笑顔にさせるのがあたしじゃなくて、なぜか悔しい。
やっぱりこれは『ヤキモチ』ってヤツなのだろうか…。あたしのこの気持ちはどこに持っていけばいいんだろうか…。
あたしは内ポケットからMDプレイヤーを取出すと、イヤホンを耳にさし、最大限まで音量を上げた。何となく、周りの音や声を聞きたくなかった。


肩を叩かれて、初めて顔を上げた。
矢上が、しゃがんで紙パックのオレンジジュースを差し出している。
あたしはMDを止めて、カバンにそれをしまいに行った。ついでに財布から、百円玉を取り出す。
「どうも。はい百円」
あたしはジュースを受け取る代わりに、百円玉を矢上の掌に乗せた。
しかし
「あ、津川ちゃんにあげて?オレ、自分の分しか出してないから」
と言ってあたしに百円玉を返し、たくさん抱えたジュースを配りに行った。


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