アイツ-1
第三火曜日の二時限目、時計にして約10時18分。オレの周りの席にいる奴らのほとんどが返された紙を見て青い顔をしたり、ホクホクさせたような顔を浮かべたりしていたがそんなことぶっちゃけどうでもいい。そう心に言い聞かしてオレは目を閉じた。「天馬〜」「はい」「中川〜」「はーい」「成美〜」「はーい」......出席番号順に配られてくる見た目は普通で中身は地獄の答案用紙。もうすぐ!あと少しで!オレも受け取らねばならぬ...そして 「葉芽野〜」きた!ついにきた!「ハイ!」元気たっぷりな声を出してオレは不安三分の一、あきらめ三分の一、希望三分の一で紙を受け取った。そ〜ッと誰にも見させないように教室の窓際のかどっこにちょこんと女っぽく座りパラッと先ほど配られた紙を見る。「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」声にならない声を出して教室中をオレは駆け巡った。「おい!うるせぇってリョウ!!あぶねーだろ!」「あぶね!!あぶね〜!!70いったわ〜〜!クソあぶなかった〜」そう、オレの事こそ、葉芽野(はがの)リョウはこの期末テストに進学がかかっていたのだ。「チッ、なんだよ〜つまんねー展開!」「アァン!?てめ、ブチ殺すぞ?」今日の休み時間にはこんな会話がどれぐらい続いたかわからないほど続いた。ちなみにさっきオレが教室を駆け巡ってた時にあぶねーだろと連呼してたのが親友の菊摺正也(きくずりまさや)だ。ま、とりあえず高2にいける道をゲットしたので3時限目からの授業はオレは爆睡してずっと夢の中だった。そして時間の流れを全く感じずにお昼休みになった頃、「おっいー、お前しっかりとオレに感謝しろよ〜?オレ様がいなかったらリョウなんかきっと高校中退してたな!」とドカッとオレの机に腰をかけて正也が自慢気にくっちゃべってきた。「ふん、てめーこそ彼女の瞳がいなかったらやばかったんじゃねぇのかい?」「ヴァーカ!!彼女いないお前にそんなこと言われる筋合いなんかアリのコンタクトレンズほどすらないね」「ヌガっ、てめー気にしてる事を!」そう...正也の言った通りオレには彼女がいない。高校に入ったらすぐにつくれっだろ〜と軽く思ってあれよあれよとしている間に2月になってしまったという訳だ。「それにしてもほんと正也はいいよな〜、身長かなりたけぇし、顔だってかっこいいし...」「なんだよソレ、お前だって身長165あるじゃん。」「でも、マジで正也がうらやましぎゃーッっっ!!」普通の声が一気に奇声に変わり正也が何事と思ってオレの後ろをのぞいてみたら...「おわっ、蓮じゃねぇか!!」「れっ、蓮だと〜!?てんめ〜〜!!」「なーに?なんか文句あるぅ??」「...痛いです」......超スマイルな顔をしてオレの後ろにいるのがクラスメイトの彩乃蓮(あやのれん)だ。蓮とは高校生になったばっかりにしゃべった女子でけっこう価値観や性格が合い、たまに一緒に帰ったりしている。 そしてたった今、蓮からの痛い攻撃を受けたオレを見て笑ってるのが蓮を含め約2名...(あぁ、こいつら呪い殺してぇ〜)とオレが思ってる時にまた後ろから声がした。「だっ、大丈夫なの?葉芽野君」「瞳じゃん!!大丈夫だよ!こいつ無駄に頑丈だから!」「私は葉芽野君に聞いてるの!正也じゃないよ!」「だ、大丈夫だよ。これくらい」心配かけまいといつわりスマイル全開で正也の彼女、瞳に無事を報告。蓮はそんなオレを少し悲しそうな顔で見て瞳に「瞳はやっさしいな〜!こんなバカのこと心配してんだからな〜」「も〜、蓮ちゃん〜!!葉芽野君の背中からすごい音がしたし、葉芽野君、実際すごく痛がってるよ!?」「全然平気だって!!」正也と蓮が口をそろえて言った。「お...お前ら」と、オレが抗議しようと思った瞬間「ねぇねぇ!!せっかく4人で進学出来たんだから今日、飲み会しようよ!」「お!いいね〜!じゃ、いつもの店に行きますか!」「え、でもまだ葉芽野君が...」「大丈夫だって瞳!それより確かに進学出来たんだ!パーッと行こ!!パーッと!」オヤジのセリフ全開でオレが最後に言ったらみんな顔を見合わせてうなずいた。進学出来たと思い出したらさっき蓮からくらった痛みなんか勝手にひいていってしまった。