午前零時の情事-3
……指……。
唾液を絡め取るように、僕の口の中を見えない二本の長い指が出入りする。
だらしなく開いた口の端から、一筋の唾液が零れた。
それは顎を伝い、じれったく首筋を伝う。
その感触に、ゾクリと身体が震えた。
手にしていた性器を、もう一度ゆっくりと扱く。
「っん……ふぅ…ん」
僕は唇を窄め、出入りする指を軽く締め付ける。
口からは止めどなく唾液が溢れ、冷えながらゆっくりと首筋を通過する。
口の中の緩い快感。
首筋を伝うゾクリとする感触。
全てが身体の中心に集まる。
身体の奥で燻っていた火が再び勢いを増し、僕を襲う。
性器を扱きながら、僕は腰を揺らしていた。
口の中から指が抜かれ、僕は薄く眼を開く。
僕の唾液を纏い、キラキラと光る『何か』が、下の方へと移動する。
いや、もう『何か』ではない。
あれは、人の手。
二本の人の手。
唾液を纏ったその一本が、膝を立てた僕の身体の中心に到達する。
僕は性器を扱くのも腰を揺らすのもやめ、今だけ見えるようになったソレを、じっと見つめた。
ソレが僕の性器に接近する。僕は思わず足を大きく開いた。
息が荒くなる。
さっき達した時のような強い快感が、欲しかった。
一瞬で終わってしまったあの快感の残像が、僕を興奮させる。
十二時に訪れる毎夜のこの行為は、確実に僕を蝕んでいた。
訪れる前にあった恐怖や嫌悪は、身体が熱くなる程に消えて行く。
与えられる快楽に夢中になって、自ら求めてしまう。
始まる前は、今日こそは抵抗しようと思うのだが、流されて結局精を吐き出す。
徐々に感度を増して行く身体に不安を覚えながら、僕はやっと正体が判明した『手』の動きをじっと待った。
口の中を愛撫されるのは、今日が初めてだった。
いつもと違う手の行動に、僕の興奮も高まる。
また違う快楽をくれるのだろうか……?
手が優しく僕の濡れた中心に触れ、僕はピクリと反応する。
ソレは下から上へ撫で上げるように優しく動いた。焦らされるようなその動きに、僕は自ら腰を突きだす。
僕の中心からは、透明な液体が止めどなく流れていた。
手はゆっくりとした動きで、五本の指全部でそれを絡め取る。
期待していた快感ではない。決して敏感な箇所には触れず、ただ撫で上げるだけの、事務的にも見えるその動きに焦らされ、僕の頭は沸騰寸前だった。熱くなり過ぎた身体から、汗が吹き出す。
強い刺激が欲しい。
快感が欲しい。
僕の頭の中は、それだけでいっぱいだった。
潤んだ瞳を天井に向ける。
……もう駄目なんだ。
誰に言い訳するでもなく、僕は思った。
……仕方がないんだ。
手の感触は、いつの間にか僕の中心からなくなっていた。
……アレは帰ってしまった。
アレがいるのはいつも十分位だった。
その間、アレは僕の身体を好きなように弄ぶ。
部屋にいなければいいのかと、わざと外出したこともあった。
だけど、アレは何処にいても僕を襲った。
アレからは、逃れられない。
快楽からは、逃れられない。
諦めにも似た気持ちを抱きながら、僕はゆっくりと瞳を閉じた。
未だ高ぶったままの性器に手を伸ばす。
クチュリと奇妙な湿った音が、下の方から聞こえた。
僕は構わず性器を握りしめる。
僕の手が性器に触れると同時に、ア〇ルに圧迫感を感じた。
思わず身体が強ばる。
そんな僕にはお構いなしに、後ろの圧迫感はどんどんと増していった。