紅館の花達〜金美花・返り咲き〜-6
カチャン―――カチャン―――
厨房は昼食の片付けを終えて、夕食の準備に励んでいた。 そんな厨房の一角でコック姿のフィルと、エプロン姿のシャナがいた。
『そうそう、そこは空気混ぜないよぅ、ゆ〜〜っくりやらんと駄目やで。』
『はい………ゆ〜〜〜っくりですね。』
ボウルに入っている物を泡立て棒でゆっくりと掻き混ぜるシャナ。
『精が出るわね。 どう、調子は?』
シャナの後ろからボウルを覗きこみ、喋りかけるとシャナは照れ臭そうに笑った。
『まだまだです………』
『いやいや、かなり筋がええでシャナはん。
もうかな〜〜り美味しいで♪』
腕組して、ウンウンと満足げなフィルと首を横に振るシャナ。
『もう少しであの日だものね、頑張ってシャナさん♪』
あの日とは………ウェザの誕生日だ。
少し前に、その日のことを聞いたシャナはフィルに頼み込んで料理、そしてお菓子の作り方を教えてもらっているのだ。
ウェザの誕生日にシャナは自作の料理とケーキをプレゼントしたいのだ。
『あと、わ・た・し♪ もやろ?』
ツンツンとシャナの胸元をつつくフィル。
『そ、それは………私なんかプレゼントしたって、大したこと無いですよ。』
いや、確実に大喜びだろう。
『それに………私はもう紅様のもの………ですから………』
『はぁ〜〜…………』
顔を赤らめながら呟いたシャナの言葉を聞いた厨房の全員が溜め息をついた。
『旦那様、羨ましいわぁ………』同感である。 女の私でさえシャナの一直線な愛には羨ましい気持ちで一杯になる。
『まぁ、タップリご奉仕したれば旦那様ったら幸せ過ぎて昇天やで♪』
ご奉仕、明らかに違う意味のご奉仕を勧めている気がする。
それがわかってか、シャナの顔もちょっと赤い。
『トドメはもちろん裸エプロ』
『料理長さん、今年でいくつだったかしらね? 紅様は。』
このままではまた数時間に渡る妄想話に発展しそうなので急に話題を変えた。 フィルは残念そうだが、首を捻って考えこんだ。
『あ〜……今年で520………あれ? 何歳やったかなぁ……』
520………う〜ん、駄目だ。 私も一の位が思い出せない。
だが、フィルを妄想から離すことが出来たので良しとしよう。
『あっ、そろそろ焼けた頃ですね。』
悩んでた私達の横でシャナはオーブンから焼きたてのスポンジケーキを取り出した。
ふっくらとしたそれは、とても美味しそう………
『あとはクリームや苺で飾り付ければ完成です。』
『というか、これさっき混ぜていたやつかしら? なんか焼き上がるの早すぎない?』
まだ十分くらいしか焼いていないはずなのだが。
しかし、その問いにはフィルが満面の笑みで答えた。
『うちの魔法のおかげやで♪』
ぐっと親指を立てて誇らしげだ。
『………ページの関係で省いたのね。』
『うちの魔法!』
ムムッと頬を膨らませて主張するフィルだったが、シャナが手早くケーキを仕上げるとすぐにそっちに関心が向いたようだ。
『ほら、アルネさんも食べませんか?』
切ったケーキが乗せられたお皿とフォークを渡されて、私も早速一口頂いた。
『………美味しいわ♪』
『ほんまに、美味しいわぁ〜♪』
作ったシャナはその言葉に嬉しそうに微笑んだ。
『この味………旦那様、イチコロやわ♪』
また話がそちらに戻りそうになったので私とシャナは慌てて話をそらしたのだった………