<凄艶な刃>-3
俺は初めてリアルに感じる彼の胸の鼓動に耳を寄せる
トクッ、トクッ、トクッ……
何年も重ね、繋げ、慣れ親しんできた筈の身体なのに、初めて聴く秀介の鼓動…
規則正しく波打つそれは、心が激しくざわめいている…そんな音だった。
と、突然、ハッと息を飲む声音と共に、肩に激痛が走る。
秀介が俺の身体を剥ぎ取ろうと、もの凄い力で肩を掴んだのだ。
掴んで突き放された俺の身体はそのまま後ろへと倒れ込み、顔を上げる隙もなく、後頭部の髪の毛を掴かまれ、そのままうつ伏せに捻じ伏せられる。
頬をジリジリと床に擦りつけられ、俺は頬の傍で拳を握り、歯を食いしばる。
徐に、裸の下肢の間に再び捻じ込まれる指……
「うあっ…あぁ…ッ!!」
乾いてしまったそこに押し入る異物感に、下唇を噛み締めたが、その歯の隙間から悲鳴にも似た嬌声が漏れる。
腕を背中へと捻上げられる衝撃で奥を深く抉られて、俺は自然と背を逸らし、アッ!と叫んで宙を仰いだ。
掴んでいた髪の毛を引き上げ、持ち上がった顔に近寄った秀介が耳元で囁く。
「俺が憎いか?こんなことされて、悔しくて堪らないか?」
「俺は!俺は…秀介を憎いと思ったことなんて一度も無い」
「!?」
間髪いれずに答えた俺の意外な返答に秀介が戸惑う…
あからさまな開けられた会話の間を見ればそう感じずにはいられない。
「ハ、ハハッ!女みたいに扱われて?女みたいに喘がされて?…惨めじゃないのかよ?男として屈辱的なことだと思わないのかよ。」
慌てて言い返した彼の焦りの胸中に、俺は遠慮なく土足で踏み入った。
「思わない!だって…秀介だから……」
気が付いてはいけなかった己の感情。
それを口に出してしまえば尚更取り返しがつかなくなってしまう…
そう思ったのは、既に取り返しが付かない状態に陥ってしまった後のことだった。
一度口に出してしまえば、次々に湧き出る言葉を、もう止めることが出来ない。
「他の誰でもない…秀介だから…男とか女とか関係ないんだ。勿論今この瞬間がお前にとって何の意味も持たないことは判ってる。ましてや愛なんて…それでも、どんなカタチであっても、好きな人に突き上げられる感触を…どうして惨めだと思わなくちゃならない?屈辱だと思わなくちゃならない?そう…アンタが俺にムカツクのは、きっとおまえも俺と同じ気持ちだからじゃないのか?それを認めたくないからじゃないのか?」
「違う!!」
一瞬教室の窓がビビッと共鳴し、揺れたような気がしたくらいの大きな声で即答した秀介。
お前も俺とただ繋がっていたいだけ…愛を感じていたいだけ…
本当に違うか?秀介
遂に凍りつき、言葉を失った秀介。
チラリと垣間見た彼の眸は、戸惑いと怒りで、まるで蒼い炎のように不安定な揺らめきを見せていた。
「くそっ!お前、マジでムカツクんだよ!」
俺の身体を仰向けにひっくり返した秀介は、透かさずその上に圧し掛かかる。
覗き込んできた秀介の爛々とぎらつく眸が、更に俺の動きを封じ込める。
そして、背後から俺の耳元で低く唸った。
「一生思い出せないようにしてやるよ…悠吏」
ズルリと指が引き抜かれると熱い電流が身体を走りぬけ「あぁっ!」と微かに声が漏れる。
そして、後ろの器官に、秀介の熱い先端を押し当てられ、俺はハッと息を飲んだ。
入ってくる……
そう感じた瞬間、自然に身体の力を抜こうと息を吐き捨てる。
長年飼い慣らされた身体がいつの間にか身に付けていた、自己防衛。
彼が身体を一気に沈めると、キツク窄まるそこの皮膚を、破壊されるその痛みが脳天を直撃する。
「アッ!…くっ…ッ!」
どんなに慣れていても、やっぱりこの瞬間の痛みには叫び声をあげてしまう。
耐えようとする俺を気遣うこともなく、全てを俺の中に埋め込んだ秀介は、筋肉の盛り上がる腕で俺の腰を掴み、優しさの欠片もなく、いきなり激しく律動を加える。
ただただ、己の欲望をぶつけている…他には何の意味も持たない交わり。
そんな酷い仕打ちにも関わらず、俺のそこは、押し入る秀介自身を全てを受け入れようと蠕動を繰り返す。