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<凄艶な刃>
【同性愛♂ 官能小説】

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<凄艶な刃>-2

「欲しい…よ…」
 『何処に何が欲しいか言って見ろ!そしたら入れてやる』
 今そんな風に言われたら、きっと卑猥な言葉を口に出してしまうかもしれない。
 そう感じて少し可笑しくなり、クスッと鼻で笑ってしまった。
 しかし、彼はそんな事を言わせようとはしない。
 そんな低俗な言葉を聞くと萎えてしまうのだそうだ。
「ほら。やれよ…」
 後ろの椅子に荒々しく腰掛けた秀介は、真正面で突っ立ったままの俺に向かっ酷薄な微笑みを湛えたまま、軽く顎をしゃくって支持する。
『欲しいなら、舐めろよ…』

 今日最後のチャイムもとっくの昔に鳴り、PK合戦でもしているのだろうか…
 サッカー部の部員達が遠く運動場でふざけ合っている声が微かに聞こえてくる。
 季節を先取りしたつもりにでもなっていたのか、少々惚けた蝉が近くでジージーと鳴いている声もさっきから妙に耳に付いた。

「お前見てるとイライラするんだよ!」
 イライラする…秀介が俺を抱くのに必要な理由は、それだけだった。
 そんな理不尽な理由で男に身体を弄ばれて、俺だって死に物狂いで抵抗した時があったし、悔しくて泣き喚いた時もあった。
 だけど、背丈こそそれほど変わりはないものの、筋肉らしきものが殆ど見当たらない華奢で細長い身体が、幼少時代からバスケットをやっていたという男に勝てる訳もなく…
 そして、気付けばいつからか、俺はコイツの犬になることに何の抵抗も感じなくなっていくのだ。
 抵抗どころか、自ら入れて欲しいと懇願しているんだから、どうかしてるよ…まったく……

 静寂の幕がおろされようとしている薄紫に染まった教室にハァ、ハァ…という俺の荒い息遣いとピチャピチャと猫がミルクを飲む時の様な音だけが響き渡る。
 口腔内に含んでいた屹立から唇を離し、太い筋に沿って舌先を這わせながらチラリと見上げた秀介は、俺とは正反対に、息を乱す事なく、また、顔色ひとつ変えず、ただ蔑むように俺の事を見下ろしていた。
 しかし…俺の網膜に飛び込んだそれは何処か何時もと違って見えた。
 その瞳の奥を覗いた瞬間、俺は息を飲んで双眸を見開く。
 その獣染みた鋭くも妖しい瞳の輝きは、何故か俺の心を切ない気持ちで埋め尽くし、心臓をトクンと跳ね上がらせた。
 だってその眸は、まるで俺に縋って命乞いをしているかのように見えたから。
 俺は彼の心の弱く歪んだ部分を見せ付けられた気がした。
「秀介……」
 何故か彼の名を呟いた俺は、指先に感じる彼の内腿の肌の軟らかい感触に、一気に体温が上昇するのを感じずにはいられなかった。
 その僅かな体温の上昇は、今まで氷で固め凍てつかせ、はぐらかしてきた衝動を見るみるまに解させていく。
 硬い氷の中に埋め込んだ、どうしても気付きたくなかったもの。
 それは一体何?
 それは……
 気付かないフリをしていた『俺の本当の気持ち』?……
 その『俺の本当の気持ち』は、俺を無性に秀介の肌に触れてみたい気持ちにさせた。
 その瞬間、沸々と心の奥から沸き起こる、愛しさ…
 俺は、その時、初めて秀介自身を煽ってみたいと思った。
 秀介が艶かしく嬌声をあげる姿が見たいと思った。
 気付けば俺は、秀介への愛撫を夢中で行っていた。
 先端の亀裂に舌先を差し込んで刺激し、全体を口に含んでキツク吸い上げてみたり、頬の内側の軟らかい部分で刺激してみたり……
 艶かしい水音に触発され、駆り立てられる俺の欲望は、身体をみるみる間に支配し、硬さを増していく。
 だが、そんな燃える様な身体の反応とは裏腹に、心は何故か不思議ととても穏やかだった。
 そんな俺に秀介はチッと舌打ちする。
 一瞬その眸が揺らぎ、目を眇めた俊介を、俺は見逃さない。 
 止めて欲しいと言いながらも、抵抗らしい抵抗をしない上に、今日は積極的に攻め立てる。
 そんな俺に、彼が苛立っているのは確かだった。
「最後の奉仕のつもりか?悠吏。やっと開放されると思ったら、何でも出来るってか?」
 ハハハ…嘲笑った彼は、何時ものように精悍な表情を見せるが、やはりそこには焦りと不安が漂っているように見えた。
 俺は不意に伸ばした両手で、力一杯秀介の背中を手繰り寄せた。
 何の前触れもなく身体を椅子から剥ぎ取られた秀介は、バランスを崩して、あっさりと俺の胸の中へと落ちてきた。
 秀介の身体が舞い降りて、二人の身体が重なった瞬間、そこからあえかな風が生まれ、側の暗幕の裾が静かに揺らめく。
 その瞬間、この小さな空間の空気の流れが変わった……


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