「雨のち虹」第1話「アンラッキー」-5
眠れない夜は異様に長く感じられた
ただベッドに長時間横たわるのも逆に疲れたため、立ち上がってみる、かといってすることもないのでなんだか余計に切なくなってくる・・
眠くないわけじゃなかった。
本当は、眠くないわけじゃないんだけど・・
眠りたくない・・
眠るとあの日を夢にみるから、
だから眠れない・・ あの日を 思い出す事それは今の私にとって何よりもつらかった
だが人間の体には
限界もある、少しの間立ち上がっただけなのに・・
「うぁっ」
急にめまいがして壁にもたれかかった
正確にはぶつかったというべきかもしれない、気をぬくと意識がもうろうとする。
お葬式やその他もろもろの事、小さな体に疲労はたまりきりになりさらに睡眠不足、
ふっと意識が薄れる。
そして夢をみる、
それは二週間前
の悲しい夢
『誕生日』 その日のわたしは機嫌が良かった、わたしの誕生日、いつも多忙なお父さんが わたしを食事に誘ってくれたから・・
去年の誕生日などは
お父さんは忙しくて
一人で過ごした、
普段不在なのは慣れているが、一人で、お父さんが用意した、プレゼントとケーキを眺めながら食事をとるのはさすがにこたえた
否が応でも、
誕生日なのに・・とか考えてしまう、
だからお父さんと一緒に過ごせるだけでも十分に嬉しかった
基本的に表情に感情は出してないつもりだったが、友達やよく面倒をみてもらっていた、弘文さんに 誕生日の事を報告すると、
「だから今日は機嫌がいいんだね」
といわれた、
何で気づかれたんだろう、
というか私はいつもそんなに不機嫌に見えているんだろうか?
私はそんな事を考えていた、
実際本人は気づいていないが、彼女はいつもの冷笑や皮肉ではなく、くったくのない 笑顔を覗かせる事が多かった、この日に限っては
−そして誕生日当日、
その日は大雨だったわたしは内心残念だった。
雨は嫌いだったから
でも、雨が降ったからといって、
出かけるのに支障はなかったので、
私は着替えてからお父さんの部屋に準備ができているか確認しにいった。
ドアノブに手をかけた時お父さんの声が聞こえた、お父さんは
誰かと電話しているようだった・・
「すまないが・・今日の予定はキャンセルしておいてくれ、今日は
娘の誕生日なんだ」 仕事の話なんだろうか少し私は心配になった。
・・続いてきいたことのある、部下の男の人の声が 聞こえる、
ちなみにお父さんは
いわゆる自営業、昔の友達と会社を立ち上げたそうだ、私が小さい時はいまいちうまくいかず、苦労したそうだが今は結構大きな会社になっている
「よろしいんですか?」
ああ・・ものすごく 重要というわけじゃない・・」申し訳なさそうにお父さんがいう
「ですが軽い仕事などは存在しませんよ。」 厳しい口調で部下の人が言う、それに対し妙に朗らかにお父さんが言った
「相変わらずよく分かってるなぁ、お前は・・確かに、
軽い仕事は存在しない、分かっててわがままを言う俺は情けないかもな、
だが優先順位はこっちにある・・ あいつには苦労かけてるし、あいつの誕生日は一年に一回だ・・これを放棄したら さすがに親失格・・経営者失格はともかくそれだけはごめんこうむりたい・・」
お父さんは今度は自分の娘に申し訳なさそうに言った。