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僕とお姉様
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僕とお姉様〜始まり〜-2

「この平成生まれがっ」
「は?」
「あたしは本気だったのに!昭和の女は重いって何それ!?」

要するに平成生まれの男に振られたんだ。

「スネかじってる分際で手切れ金なんかよこしやがって!!」

しかもそれがいい男じゃなかったわけね。
気持ちは分かるけど、だからって平成生まれを一くくりにして毛嫌いされるのも気分悪いなぁ。

「どうせあたしは古い女よ!」
「若いじゃないですか」
「平成生まれに言われたくな―…っ」

言いかけたお姉様は突然口を押さえた。次の瞬間両頬が餌を貯め込むリスの様に膨らんだ。

「ストップストップ!せめて植え込みに―…」

…遅かった。
その場に似つかわしくない汚物がお姉様の口からぶちまけられた。
最悪だ。

「あーっ、スッキリしたー」

全て出し終えたらしく、日本酒で2〜3度うがいをして今度は真顔で僕を見た。

「で?山田はここで何してんの?」

意外にも自己紹介は覚えているようだ。

「悩みがあるならお姉様に話してごらん」

こーゆうセリフは酔ってないお姉さんに言われたいよ。酒臭いし背後には悪臭を放つ汚物があるし。
まぁどうせ相手は泥酔状態だ、話したって寝て起きたら忘れるだろ。

「家出です」

素直に打ち明けた。

「手ぶらじゃん」
「突発的なもんで」
「うっわ〜、無計画だねー。さすが若者」

この人、完璧バカにしてるな。

「で?家出の原因は?」
「お姉様と同じです」
「ふざけんな」

間髪入れずに頭をはたかれた。

「あたしの本気の恋愛と子供のお遊びを一緒にしないでくれる?」

絡まれても吐かれても許せるけどさすがにその発言にはムッとした。
お遊びなんかじゃない、真剣だったんだ。

「結婚するつもりだったんです」

言葉に出した瞬間、今までの思いが一気に弾けた。10年以上思い続けた幼なじみ、このまま結婚するんだって漠然と思ってた。

「16才になったらうちにお嫁に来るって言われたら誰だってプロポーズされたと思うでしょ!?」

誰にもぶつけられなかった気持ちをたまたま知り合った酔っ払いのお姉様に向けるのはどうかと思うけど、でも誰かに言わずにはいられなかった。

「だからー、結局子供のお遊びだったんでしょ?」
「彼女うちに来たんすよ、今日からお世話になりますって!横に僕の父さんを座らせて!!意味分かります!?」

思わず立ち上がって拳を握り締めて叫んだ。
鼻息荒く、しかも泣きそうな僕にお姉様は少し考えて言った。

「お父さんと結婚しちゃったって事…?」
「そうですよっ」

認めるが早いか、その顔はみるみる明るくなっていく。大爆笑されたのはそれからすぐ。

「あはははは!!!!」

相当おかしかったらしくお腹を抱えてゲラゲラ笑うこの人に殺意を抱いたのは言うまでもない。

「マジかよ!そりゃ家出もするわ。あー、でもお遊びって言ったのは悪かった!!山田的にはかなり真剣だったんだねー」

そうだよ、メチャクチャ真剣だった。
言葉にできた事で力が抜けて膝からストンと座り込んだ。笑い飛ばされた事よりも誰かに話せた解放感からか、涙がぼろぼろこぼれた。

「…山田?」

初対面の人間の前で感情丸出しにする僕は、やっぱり子供なんだ。あの子は一人で僕を支えてきた大人の父さんを追っていたんだろうな…


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