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僕とお姉様
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僕とお姉様〜始まり〜-3

「ごめん、笑ったのは謝るよ。だから山田はため込んでたモノ吐き出しな?聞いてあげるから」

相手が何者であれ、他人に優しい言葉をかけられたのは久しぶりだった。人間不信になりかけていた心が少しだけ持ちこたえる。

「中3の夏にお嫁に来るって言われたんです。だから進路も進学校から工業高校に急遽変更して、早く養えるようにって…」

常に上位の成績を維持していた僕の突然の進路変更を先生は必死で止めようと説得してきた。それを無視して、その後の人生を賭けて今の高校に入った。
全ては僕とあの子の将来の為だったのに…

「でもさ、普通16の娘を18の息子のいるおっさんに嫁がせる?」
「その子一人娘で、ご両親は嫁にやるなら目と鼻の先って決めてたみたいですよ。その方が安心だって」
「…なんか変な時代が作った歪んだ親って感じ」
「でも人選は間違ってないです。父さんは男手一つで僕を育ててくれて、年は40近いけどその辺の若者よりは絶対幸せにしてくれるから」

僕は父さんを尊敬していた。仕事より僕を優先して学校行事には必ず参加してくれた。

「だから、あの子もご両親も父さんを選んだんだ。考えたら、僕なんか好かれるわけないし」

すっかりいじけモードに入ってしまった。

「うざいなぁ…」

お姉様からは愛情もいたわりもない言葉が向けられる。

「仕方ないでしょう…」
「仕方ないよね〜、結局山田の自惚れと勘違いだったんだから」

図星。
カッコ悪くて口に出さなかったのに、なんで酔っ払いなんかに見抜かれなきゃいけないんだ。

「奪っちゃえば?」
「んなこと…っ、できるわけないじゃないですか」
「なんで?片思い歴は山田のが長そうじゃん」
「期間なんか関係ないですよ。実際選ばれたのは父さんだし、僕は父さんに勝てるとこないし」

お姉様は腕組みをして、軽く唸った。

「確かに山田の話を聞いてる限り、あたしも間違いなく山田父を選ぶだろうけど、」

そらみたことか。やっぱり僕じゃ駄目なんだ。

「山田には若さがある」
「…だから?」
「山田父が死んだ時がチャンス!」
「おいっ!!!!」

目の前でガッツポーズをするお姉様に思わず突っ込んでしまった。

「いいじゃん、通夜の席で落ち込む未亡人を慰める義理の息子みたいな」
「何勝手に昼ドラみたいな設定作ってんだよ!」
「じゃあ手っ取り早く不倫しちゃえば?」
「お前アホか!」
「あー、若者からかうと酒が美味い」
「はぁっ!?」

ひゃっひゃっと悪魔のように愉快そうに笑うお姉様。いや、絶対悪魔だ。人が真剣に話してるのに。

「その幼なじみの子はさぁ、山田を家族みたいに慕ってたんだよねぇ」
「そうでしょうね」
「山田にだけは自分の気持ちを打ち明けて相談して、16で結婚相手決めるって結構勇気いると思うんだよ。それができたのは山田がいたからじゃないの?」
「僕が2人をくっつけたって事ですか」
「うん、だから感謝されてるだろうし、心配してると思うよ。とりあえず帰った方がいいんじゃない?」
「…」

分かってるよ。
僕が泣こうが喚こうがどうにもならない事くらい。でもその時は飛び出さずにはいられなかった。
だって僕は真剣に好きだったから。
諦めるようにこくんと一つ頷く。

「お利口さん」

お姉様は呟いてそっと頭を二、三度撫でた。その後だんだん体が近付いてきて…
えっ?
何事。
何で体が覆い被さって…っ

「ちょっと!?」

ドサーッ
押し倒された直後、

「…ぐぅ」

お世辞でも可愛いとは言えないいびきが響いた。

「…おぃ」

とりあえず突っ込んで、寝技の体勢から脱出。

置いてく訳にはいかんよなぁ…

いつの間にか雨は上がって、頭上ではカラスが活動を始めてる。
一応、話を聞いてくれたお礼って事です。
心の中で誰かに説明をして、僕はお姉様をおぶって湿ったアスファルトの上を歩き出した。


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