I's love there?-6
「……ふ〜ん。そうなんだ。つまんないの。障害があると盛り上がるよ? 自分や相手の気持ちの再確認ができるし」
「盛り上がらなくていいの。平穏が一番。そんなのがなくても、気持ちの再確認はできるでしょ」
「そぉかなぁ。麻衣は恋にクールだよね。欲がないというか。嫉妬とか、あまりしないでしょ?」
嫉妬しない?私が?
そんなことないよ、と反射的に言い返したもののその言葉は頭の中でこだました。
その涼子の言葉を、私は一日中思い出していた。授業中や昼食中、ふとした瞬間に思い出しては考える、ということを繰り返し、あっという間にその日の授業は終わったのだった。
「ねぇ、私って恋にクールなの?」
アーケードに並ぶ店をウィンドーショッピングしているとき、突然私は問いかけた。日は落ちて、街はたくさんのカップルで賑わっている。その人ごみのなかを、するりと器用によけながら、肩を並べて歩いていく。その隣り合わせの手はしっかりと恋人つなぎで結ばれていた。
「ははは! 何それ。冗談?」
そう軽く笑い飛ばす翔太は浮かれていた。そんな翔太を見るのは久しぶりのような気がして、私も心が弾んでいる。
「今朝、涼子が言ったの。中学の頃に比べると、私、成長したのかな?」
涼子は中学時代の私を知らない。高校になってから一緒の学校になった。
「あぁなんとなくわかるかも。恋愛に関しては、麻衣は中学の頃と変わったよな。まるで別人」
さっきの明るい笑顔はなくなり、遠くを見るような表情で翔太が言った。
「そぉかな。あんま自分ではわかんないんだけど」
「よく言うよ。昔はあんだけ嫉妬してくれたのに。今では俺が女の子と話していても素通りするだろ?」
そう言いながら店頭の看板に気をとられる私をぐいっと引っ張った。
「なによ。嫉妬してほしいの? また廊下で叫んであげようか? 私の彼をとらないでぇ!て」
「やめてくれ!廊下歩けなくなる」
と手を振りながら言う翔太は笑顔だ。つられて私も笑顔になる。私は、学校に行きづらくなるからもう二度と言わないし嫉妬もしないようにしているんだ、と言った。
それは今日一日考えていた結論だった。そんな私の話を黙って聞いていた翔太が突然私の手を引っ張った。その先にあるのはジュエリーショップ。何故ここに入ろうとしているのかわからず、ぽかんとしている私を更にひっぱって店内へ入ると、迷わずにガラスケース内を指差した。
「これどう?」
指差したのはシンプルなペアリング。余計な装飾がなくて、なかなか私好みのものだった。
「……え?」
どういう意味なのか翔太の口からはっきり聞きたくて、わざと聞き返した。
「二周年の記念に買ってやるよ」
照れくさそうにそう言った翔太は、奥にいる店員を呼ぶと財布を取り出して会計を済ませた。
店を出るとその場で袋を開け、私の左手に指輪をはめた。
「これ買いたくて金溜めたんだ」
ぼそりと言う翔太の言葉がうれしい。
ありがとう、と言って覗き込んだ顔が、思いもしない表情でびっくりし、思わず翔太が見つめる方へ振り返った。そこにいたのは同い年くらいの女の子ふたり組み。片方の女の子が、にらむようにこっちを見ていて、その隣にいる女の子は両手を顔にあてて下を向いている。
この情況がどんなことを意味するのか、私には理解できなかった。まさか、とよぎる不安。左手には、たった今もらった愛の証。その左手を乱暴に掴まれたかと思うと、女の子たちがいる方とは逆の方向にぐいぐいと引っ張るように歩き出した。翔太の表情は硬い。私はどうしようもない孤独感に襲われた。転びそうになりながら必死に歩く私の心に、昨日サリーちゃんの背中越しに見たあのオレンジ色の風景が遠い出来事のように思い出されて、涙がこぼれそうになった。