I's love there?-4
勤勉で努力家のサリーちゃんは常に成績がよくて、今年の春、県内でトップクラスの進学校に入学した。
翔太と仲良く滑り止めの私立高校に入学した私とは大違い。だからなのか、はじめてサリーちゃんと話をしたときはうれしかった。
「矢田さん、消しゴム落ちたよ?」
宿題を忘れて借りたノートを必死に写している最中、目の前ににゅっと手が伸びてきた。びっくりして見上げると、無表情で私を見つめるサリーちゃんの顔があった。
「……ありがと。気がつかなかった」
にこりと笑顔で答えると、私はふたたび書きはじめた。
(佐藤くんが話しかけてくれた……)
自然と口元が緩む。それは恋愛感情ではけしてない。
サリーちゃんというといつも同じ光景を思いだす。
窓際の席でピンと背筋を伸ばし、姿勢よく座わって本を読んでいる姿。サリーちゃんは物静かな人だった。親しみやすいそのあだ名とは裏腹に、どこか近寄りがたいオーラを漂わせていた。
そのサリーちゃんが話しかけてくれたのだ。つい顔に出てしまう。でも、その小さな喜びは、次の言葉であっさり壊されてしまった。
「今日も宿題を忘れたの? 懲りないね」
すぐに立ち去ったと思っていたサリーちゃんは、まだすぐそこに立っていた。サリーちゃんはあざ笑うような顔つきで私を見下ろしている。その表情で、さっきの言葉が聞き間違いではなかったと嫌でも確信した。
言葉を失くして絶句する私に、フッと小さく笑って
「早く写さないと、先生が来ちゃうんじゃないの?」
と言って立ち去って行った。
呆気にとられて後ろ姿をいつまでも見ていた私は、宿題を写すどころではなくなり、結局後で先生に怒られるハメになった。
その日をさかいに、私とサリーちゃんはときどき話をするようになった。あいかわらず嫌味を言われてばかりいたけれど、サリーちゃんが言うと、不思議と嫌ではなかった。むしろからかわれるのが楽しくて、わざとムキになって言い返したりしていた。
そうは言っても、あのときは毎日会っていたから……。それに、今日みたいに優しくされると、なんだか違う人みたいで。
高校も別になったし、なんだかサリーちゃんが遠くに感じる。クラスメイトだったけれど、友達とはちょっと違うし……
「やっぱりやめようかな。サリーちゃんは住む世界が違う。私なんかと友達になったってうれしくなんかないだろうし……」
弱気になって携帯電話をたたむと、ベッドに倒れた。
仰向けで天井を見上げる私は、サリーちゃんの背中越しに見た風景を思い出していた。
あのとき心で感じた暖かい感情は、とても久しぶりだった―…
「えぇい! 悩むの、ヤメヤメ。深く考えるからダメなんだ。お礼だけ打ってメールしちゃえ!」
そう叫んでボタンを押そうとしたとき、着信音が鳴り響いた。相手は翔太だった。
翔太はいつもの軽いノリで今日はごめんな、と謝った。
気持ちが引き戻される。サリーちゃんによって暖められた心は急速に冷え、心がずぅんと重くなっていった。
「久しぶりのデートだったのに……」
ぼそりと言った私の言葉は、次の話題を喋り続ける翔太の話し声でかき消された。
「久しぶりのデートだったのに!」
今度は叫ぶように言った。やっと私の異変に気がついたようで、翔太の喋り声が止まる。