I's love there?-17
少し間があり、涼子はそう、とだけ言った。その間、一度も私の顔を見なかった。
私は今でも自分の勘を捨てきれずにいる。男女の関係を持っていないにせよ、涼子は翔太が好きなのでは、という勘だ。
私は、口にするのは最後にするつもりで聞いてみた。どうせ返事は同じだろう、と思いながら。
「やっぱり、涼子も翔太が好きなんじゃない?」
私はじっと様子をうかがう。涼子は表情を変えずに一瞬だけ考え、パッと顔を上げた。
「私、ハナも麻衣も好きなの。好きな人の大切な人は、やっぱり魅力的に見えちゃうのかもね」
こう言ってにやっと笑みを浮かべる。その勝ち誇った顔に、私はドキっとした。いきいきとしてとても綺麗だった。そしてその表情で涼子を好きになってしまったのだった。
昼休みに屋上で待ち合わせをし、私は翔太に別れを告げた。この場所と時間を選んだのは、昨日、ここで起きたことを嫌な思い出にしたくなかったからだった。
はじめは嫌だと言って泣いていた翔太は、涙が枯れるころには別れを受け入れていた。そして、ハナについて話し始めた。
それは長い話だった。涼子が話した内容を、今度は翔太が感じたことを中心に、ひとつひとつかみ締めるように話した。話しているときの翔太の表情はハナを心から好きだと物語っていた。遠くを見つめ、愛しい目をしている翔太の顔を、私はときどき陰で涙を拭いながら、じっと見ていた。友達に戻ると、もう二度と見れなくなる表情。たとえ自分に向けたものでなくても、愛しいものを見る翔太の顔を、いつまでも忘れないように目に焼き付けていたかった。
午後の授業をさぼって喋り続けた翔太は、最後にこう言った。
「俺、今でも麻衣を愛している。それは嘘じゃない。でも、どうしてもハナを捨てられなかった。俺、何度も何度もふったんだ。俺には彼女がいるから、と。でもあいつ、何度ふっても、次の日にはやっぱり公園で俺を待っているんだ。そのうちにふることが出来なくなって、ずるずると会うようになった。でも麻衣は傷つけたくない。すっげー悩んだ。俺、今でも麻衣を愛している。でも、ごめんな。別れる、て言ってくれて、内心ほっとしているんだ。ごめんな、麻衣」
私は涙をこらえることができなかった。翔太の気持ちはよく理解できた。私も、似た想いだったから。今でも好きだけど、でも翔太と見た将来ではなく、もっと別の未来を見たくなっていた。
心に灯った、小さな光。そのオレンジ色の光を、ゆっくりあたためてみようと思う。
「きっと、私たちは成長したんだね。だから、離れるんだね」
私は立ち上がった。後から、翔太も立ち上がる。
「じゃ。……これからは、友達だね」
私は右手を差し出した。その手を、涙目の翔太がゆっくりと掴んだ。
「……いや。友達じゃない。親友だ。……すぐには無理でも、いつかそう呼べるようになろうな」
私は笑顔で返事をした。
そして、ゆっくりと手を離す。そのまま、後ろは振り返らずに、屋上を後にした。