I's love there?-15
「矢田?」
声をかけてきたのはサリーちゃんだった。サリーちゃんは今日も自転車に乗っている。
「最近よく会うなぁ。何やってんの?」
「ん〜…。考え事」
「ふぅん。考え事ねぇ。白々しい嘘を。どうせまた彼氏を待っているんだろ?」
『どうせまた』
きっと深い意味はなく言ったサリーちゃんの言葉。でも、今の私にはそのひとことが痛かった。
私は整理しきれないぐちゃぐちゃな気持ちを抱えながらも、どこかで決心をしていたのかもしれない。
『どうせまた彼氏を待っている』
もう、この公園で翔太を待つことはないだろう。
(翔太と別れよう……)
私は決心した。
それはけして浮気をされて悔しいからするのではない。この寒い夕暮れのなか、毎日ひとりで待っているハナという子のためにするのでもない。
自分自身のため。翔太と離れて、自分をもう一度見つめなおしてみたい。失くしてしまった心を取り戻したい。
「な、なんで泣くんだよ?」
乗っていた自転車を
がしゃんと倒して、サリーちゃんが走り寄ってきた。
熱い涙が頬をつたい、ぽたぽたと膝の上に落ちていく。そんな自分に驚いた。泣きたいわけではないのに、別れようと決心してすがすがしくさえあるのに、涙はどんどん溢れてくる。
「なんかまずいこといったかなぁ」
ブツブツ独り言を言いながらサリーちゃんは困った様子でおろおろとしている。
「大丈夫、大丈夫だから」
サリーちゃんを気遣って私はそう言うけれど、涙は一向に止まらなかった。
「無理しなくていい。泣きたいときは思いっきり泣きなよ」
サリーちゃんは隣に座った。そして、ゆっくりと頭をなではじめた。私は誘われるようにサリーちゃんの胸に頭を預けて、涙が枯れるまでいつまでも泣き続けた。
「にゃぁ」
チリンチリンと鈴の音とともに猫の気配がした。下を見ると白い子猫がサリーちゃんの足に何度も頭を摺り寄せている。
「わぁ! かわいい!」
私はいつもより高いトーンで叫ぶ。するとサリーちゃんは慣れた手つきで子猫を抱き上げた。
「おまえ、また抜け出していたのかぁ」
喉を撫でながらサリーちゃんが言う。家で飼っている猫なのだけれど、もともと野良猫だったせいか、よく家を抜け出すのだ、と説明した。
「家、近いの?」
と私が聞くと、座っているベンチから正面を指差し、あそこ、とぶっきらぼうに言った。そして、
「僕の部屋から、この公園がよく見渡せるんだ」
と言ってにやりと笑った。
(よく見える……。まさか、昔からずっと見られていた?)
熱くなる顔を抑えてパニックになる私を、サリーちゃんは家に誘った。
「身体、冷えただろ? あったかいものでも飲んでいけよ」
そう言ってスタスタ歩いていくサリーちゃんの後をあわてて追いかけて、私は佐藤家の門をくぐった。
家には誰もいなかった。玄関からまっすぐに伸びる廊下は雑然としていて、空のダンボール箱が何枚も組み立てられずに立てかけてあった。
大きなソファがある部屋に通されて待っていると、やがて両手にコップを持ったサリーちゃんが現れた。