H.S.D*7*-3
「そうかな?」
「そうだよ。瑞樹が言ってたことは音羽の言いたいこととは違ってたの?」
少し考えてから、あたしは首を横に振った。
「ほらね!結局は瑞樹が音羽を助けてくれたんだよ。良かったね、音羽!」
好美は優しく微笑んだがあたしは
「でも、あれ、あたしじゃなくデートに遅刻しないためって言ってたよ」
と付け足した。
すると好美は
「ゲッ、そうなの!?いい人になったと思ったのに…。あーあ、どっかの誰かさんが今頃、瑞樹の餌食になってんのかぁ…」
と顔をしかめた。
その顔を見て今度はあたしが笑った。
秋風も笑っているかのように、あたしたちの間をヒョウッと吹き抜けた。
「じゃ、あたしこっちだから?」
「そうなの?」
キッと好美はブレーキを掛け、T字路の左を指差した。
「うん、じいちゃんね、今入院してんだ。お見舞い行くの」
「へぇ…。大丈夫?おじいちゃん…」
「うん。最近は医療が発達しててさぁ!こんな田舎でも、ちゃんと対応してくれんの。もうじいちゃん元気になって退院出来そうなんだぁ」
「そうなんだ。おじいちゃんに、あたしも退院祈ってますって伝えて?」
「オッケ、伝えとく。じゃ、バイバイ!」
そう言って、好美は病院の方へと消えていった。
あたしは好美の後ろ姿を見送って少ししてから、右へと曲がった。
もう数分で家に着く。
何だかんだ言っても、助けられたのには変わり無い。矢上がどんな気持ちだったかは知らないけれど、形としてはあたしを助けれくれている。
だけど、あたしは助けられたなんて認めたくない。
どうして?どうして…。
矢上がどういう人間かあたしは知ってる。
あたしの中のヤな奴ランキング一位は矢上のはず。
だから、誰のためだろうがあたしには関係無いはずなのに、あたしは一体何が気に食わないで、こんなモヤモヤとした気分になっているのだろう。
素直になれ…。自分の気持ちをよく見ろ…。あたし自身を騙すようなことはするな…。
まさかとは思うけど…。
自分でも信じられないけれど…。
あたしは、矢上の矛先があたしを向いていないから…だからあたしは…。
家に着く数分間、あたしはそんなことを考えていた。。
そして今、あたしの頭の中には『ヤキモチ』という四文字がぼんやりと浮かんでいた…。