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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*7*-2

「瑞樹くんが?」
「はい、矢上が」
しつこい。
「へぇ〜…すごいわね。あの瑞樹くんが…」
「でも、所詮デートのためです」
「そう。だけどデートのためだろうが、何だろうが、クラスのためにここまでしてくれたのは事実でしょう?」
急に真面目になった先生に問い掛けられて、あたしは吃りながらも
「あ、はい…そう、ですけど…」
と頷いた。
すると先生は嬉しそうに微笑み
「良かったね!」
と言った。
何がどう「良かった」のか分からないけど、取り敢えずあたしは「それじゃあ、あたしは帰ります」と言って職員室を出ていった。手にはしっかり、大福を握って…。


昇降口に行くと、好美が下駄箱に寄り掛かって立っていた。
靴を履き替えるときの音であたしに気が付いたらしく、好美がこちらを振り返った。
「あ、音羽ぁ!」
「あぁ、好美。それじゃあね」
「待て待て待てっ!」
好美は帰ろうとするあたしの首根っ子を掴み引っ張った。
「ぅおっ!」
おかげであたしは、かくんと後ろにそのまま倒れそうになってしまった。
「何すんの!!」
あたしはキレる。
「あたしをシカトする気かい!!」
なぜか好美もキレる。
「シカトしてないでしょうがっ」
「あんたを待ってたのに、何でバイバイ言われなきゃいけないのっ!!」
「なっ…ん?何?好美、あたしと一緒帰ろうとしてたの?」
好美は一度大きく鼻から息を吹き出し
「そうだよ。予想外の音羽の態度に、当初の目的を忘れかけてたワっ」
と言って歩きだした。
「なら、最初からちゃんと言ってよね…!」
あたしは少し早歩きをして好美の横に並んだ。好美の横顔は、あたしとの言い合いを楽しんでいたようで、満足そうに笑っていた。
ふいに、好美の目線があたしの手へ…。
「あ、大福おいしそう。ちょうだい?」
「え?…あ、うん。いいよ」


秋の匂いがする河川敷をあたしと好美は並んで自転車を漕いでいる。
「それにしてもさ、瑞樹がキレたのにはビビッた」
好美が思い出したように呟いた。
「たぶんね、あの教室内で一番驚いたのはすぐ側にいたあたしだと思うよ」
あたしたちの頭上には、真夏の空よりも心成しか薄く感じられる青空が広がっている。
「いきなり大声だもん、心臓止まるかと思った…」
好美は「アハハ、だろーね!」と笑った。
勘違いかもしれない。
次の好美の言葉をしっかりとあたしに聞かせようとしているように、一瞬、あたしたちを取り囲む音が消えた。
「でも、良かったじゃんっ!」
「え?」
あたしの時間が止まったように感じられた。
先程、文子先生にも言われた「良かった」を、ふと思い出したのだ。
「何が『良かった』の?」
好美は少しあたしを見ると前を向いたまま
「だって、瑞樹が音羽を助けてくれたんでしょ?」
助けた?全く意味が分からない。
「いいや、それは無い」
「端から見れば助けられてたの!音羽、あたしから見たら一生懸命なのに声が届いてないみたいで…すごく可哀相だった」
あたしは同情されていたらしい。
「だけど、瑞樹が怒鳴ってくれたおかげで、みんな、ちゃんと聞こうと思ってた」
確かにそうだ。それは認める。だけど、矢上に助けられたとは思いたくない。


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