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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*8*-1

「それでは、音羽と矢上は材料買いに行っちゃってください」
何でだ。何であたしが行かなければならないのか。
「いやですっ!」
その上、なぜ矢上と二人なのか。
「行きなさい!」
「いやです!」
「行きなさい!」
「いやです!」
「生きなさい!」
「生きてます!」
睨み合うあたしと好美。しかし好美のバックには、好美を先頭としてボーリングのピンのようにクラスメイトが並んでいる。
矢上は火花が散る丁度真ん中辺りに立ち、あたしたちの様子を見ていた。
一対大勢…卑怯だ。
「行けったら行けっ!」
「いやったらいやっ!」
今から装飾の材料の買い出しなんてめんどくさくて行ってられるか。
しかも矢上と二人ぼっち。何かイヤだ…。
「行けっつぅの!二人は実行委員なんだからっ!!」
「ふん。実行委員の権限で好美と誰かをパシリに使ってくれるワ!!」
「あたしは確定かよ!」
「オフコース!!」
両者一歩も譲らない。
無言で睨み合うこと数分…。ピリピリとした空気が教室内に流れる。
先に口を開いたのは好美だった。
「…じゃあ…瑞樹に聞いてみる?」
なんと、ここで瑞樹の乱入か!?
しかしあたしは小さいが、確実にこくんと頷いた。
「瑞樹、音羽とふ・た・り・で!買い物行くよねぇ?」
「矢上、買い物は好美と!他の誰かに行かせるよねぇ?」
「う〜ん…」
矢上が目を閉じた。
穴が開くのではないかという程、みんなの視線が矢上に刺さる。
暫く考えてから矢上は目を開け
「行こっか、音羽ちゃんっ!!」
とあたしの肩を叩いた。
その瞬間、頭の中のリングでは『カンカンカンカンカン!』と試合終了のゴングが鳴り、審判の矢上が「You lose!」と叫び、あたしはサラサラと細かな砂となって崩れていった。
そして好美は現実でも頭の中でも、ぴょんぴょん飛び跳ね
「あいあむなんばーワ〜ン!!」
と喜んでいた。
「ま、負けた…」
嘆くあたしには、好美の可笑しい発音の英語が耳障りだった。
今すぐその息の根、止めてやろうか…。
いざ攻撃を仕掛けようとした時だった。

―クンッ…

左腕に心地よい圧力を感じ、体が後ろに引っ張られた。
あたしは慌てて振り向く。
「行こう?」
矢上があたしの腕を掴んでいた。またあたしの腕をくいくいと引っ張る。
「…うん…」
あたしは経費の入ったガマ口財布を首から下げると、『仕方なく』矢上の引っ張られるがままに動いた。
教室を出る時、矢上の視線は好美を讃えるクラスメイトへと移された。
一瞬矢上が止まった。


―え…っ!?


見上げた先にある矢上の表情を見て、あたしは胸が苦しくなった。
「矢上?」
「あ、ううん、じゃあ行こっ」
ニコッとあたしに笑い掛けると、あたしの腕を掴んだまま、矢上は足早に歩き出した。あたしに顔を見せないようにするためなのか、あたしの一歩先を矢上は歩く。
だけど、あたしは見てしまった。
あの一瞬、矢上がとても悲しい微笑みを浮かべながら、切なそうに好美たちを見ていたことを…。


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