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この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

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目の前の君へ-3

「カフェの窓際の席にいたって」
「…」
「そこは、僕じゃ連れて行けない場所です」
思い出したのはこの前行ったレストラン。奥の席に通された事を自分のせいだってずっと気にしてたんだ。なのにあたしは、気付きもせずまた同じ思いをさせようとした…
「僕は、すずさんを喜ばせてあげられないから」
嫌だ。
そんな事言わないで。
伝えたいのに声が出ない。体が動かない。
行かないで、行かないで、行かないで…
ガチャン
冷たい鉄の扉は、耕平君の背中を飲み込むように消してしまった。


一切連絡のない土日なんて今までなかった。耕平君は週休二日だから、不定休のあたしの為にご飯を作って待っててくれたりして…。
よく友達に「無神経」って言われた。
ケンカの原因は、いつでもあたしの余計な一言だった。
後から気付いて落ち込む事はしょっちゅう。そんな自分が嫌いだったけど、耕平君だけはあたしを責めなかった。
『後で気付いて反省するって大事な事だと思いますよ』
その言葉にどれだけ救われたか分からない。嬉しかった。ずっと一緒にいられたらって淡い希望も抱いた。
でも、結果あたしは大好きな人を自分で傷つけて手放したんだ。
壁の向こうはとても静かで、耕平君がいるかどうかも確認できない。
ベランダに置かれたテーブルが風に吹かれてガタガタと鳴って、それが可哀想で外に出て久しぶりに椅子に座った。
いつもよりザラザラした触り心地。薄く砂が被ってる。
「いつも掃除してくれてたんだ…」
あたしは何も分かってなかった。
耕平君の優しさも見えないとこへの気配りも、どれだけ自分が想われていたかも。
後悔に襲われながら椅子とテーブルを雑巾で磨いた。意思とは関係なくこぼれ落ちる涙が自分の幼さを表しているようで、情けなくてまた泣けた。

ありがちなドラマや漫画なら、今頃耕平君に第三者がフォローしてくれて誤解が解けてめでたしめでたしみたいな展開なのに。現実は自分が動かなきゃ誰も何もしてくれない。その証拠にあたしは毎晩ベランダでひとりぼっち。カーテンの隙間から漏れる光がそこに耕平君がいる事を教えてくれるけど、それが開けられる事はない。
あたし達は終わったんだ。
嫌でも現実が見えてきた。
テーブルに突っ伏してうとうとしながら考えた。
このまま終わった方が耕平君の為だ。あたしはいつも与えられるばかりで何もしなかったから、これでいいんだ。
でも、ごめんとありがとうは言いたかった…



猛烈な冷えに体が震えたけど、それよりあたしの目を覚まさせたのは、
「…ん、すずさんっ」
ずっと聞きたかった声だった。
顔を上げて一番に見えたのは、大好きな人の顔。
「何月だと思ってるんですか、こんなとこで寝るなんて」
耕平君だ。
ずっと会いたかった人が目の前にいる。
許してもらえたわけじゃないのも自分が何をしたかも分かってた。それでもすぐそこにいる事実が嬉しくて、テーブルを乗り越えて耕平君に向かってダイブした。勢い良く尻餅をつかせた体勢にしがみついてとにかく泣いた。
何度もごめんを繰り返す。言い訳もたくさんした。カッコ悪くても言わなきゃ伝わらないから、鬱陶しいかもしれないけどこのままじゃ諦めきれない。
「僕がちゃんと話を聞かなかったのがいけなかったんですね…」
「違っ、あたしが…っもっと、早く…っ」
嗚咽のせいでうまく話せない。でも自分の口で伝えなきゃ。


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