全てを超越『2』-2
「聞いたよ。朝霧先輩との事」
「なんで知ってる?」
そこまで噂が広まってんのか?まだ一時間ちょっとしか経ってねぇよ。
「あたしも学食にいたもん」
なぁんだ。驚かせんな。
「それにしてもさぁ、意外だよね。あの朝霧先輩が、一兄なんかに告白するなんて」
俺の横に寝転がった春子が呟く。
「この大学で一番驚いているのは、他ならぬ俺だ」
いや、ホントホント。どこが良いんだろーね。
「どこが良いんだろーね?一兄みたいなちっさいの」
俺が聞きたいわ。それに一言余計だっつーの。
「……るせーよ。デカ女め」
会話から推測はたやすかったろうが、一応補足しておく。
俺の身長……163センチ。
春子の身長……184センチ。
その差なんと約20センチ!!
神よ。あなたはなぜ俺にこんな仕打ちを!?
ま、今更言ったって仕方ない。コンプレックスでトラウマな事受け合いなこの身長だけど、最近は開き直った。
考えてみりゃ、それ程小さくもない(女に比べたら)。
ただ、背の高い女は相変わらず苦手だが。あぁ、春子は別ね。こいつは女じゃない。
「なんか今、失礼な事言わなかった?」
「別に〜」
「そう。……でもさ、朝霧先輩を慕ってる人があんなにいるならさ、一兄の事が好きな人…朝霧先輩以外にもいるかもよ」
突然なにを言い出すんだか。
「ま、まさかぁ。今まで告られたこともないんだぞ、俺は」「……………よ」
急にいつも明るい春子の表情に影が差した。小声で何か言ったみたいだが、聞き取れん。
「何か言ったか?」
「…なぁんにも言ってないよー」
しかし、すぐにいつもの明るい春子になった。余計な詮索はしないようにしてるから、とりあえず何も聞かないでおこう。
高校の時、詮索した挙げ句に暴走して、こいつを傷つけた事があるからな。
「…そういや、あたし見たんだよね」
「何を」
急に意地悪い顔になりやがって。
「一兄を追いかけ回してた人らが駐輪場にバールとか金槌とか釘とか手に行くのを」
…………なんですと?
「確か駐輪場には、一兄が命の次に大切にしてる単車があったよねぇ?」
血の気が引く音が聞こえる。
「じょ、冗談じゃねぇ!!」
あれはやっと先週に納車したばかりだぞ。中古だったけど20万近くした、俺の宝物だぞ。
「あいつら!俺の単車に手ぇ出しやがったら、挽き肉にして、亀池の鯉の餌にしてやる!!」
大学の敷地内にある亀池には鯉が10匹ほどいるのだ。
はっ、説明場合じゃねぇ!!
「うおぉぉぉぉっ!!」
「頑張ってねぇ」
春子が冷やかし度100%配合の言葉を俺に投げかける。背中に受けながら、俺は駐輪場へとひた走った。
「………鈍感」
「はぁ…はぁ…はぁ…。ぶ、無事か?俺のCB……」
さっきいた校舎と駐輪場の位置はキャンパスの端と端。必然的にかなりの距離を全力疾走するはめになった。何かあったら訴えてやる。
「む…?」
前から奴らがトボトボ歩いてくる。見つかると厄介だ。どっか隠れるところは………。ここでいいか。
「はぁ。あの色情魔のバイク、パンクさせてやろうと思ったのに」
「俺もいろんなパーツひっ剥がそうと思ったのに」
「なんで……朝霧さんがいたんだ」
「「「はぁーーーー……」」」
……ガサッ。
行ったか…。
周りの状況を確認。負け犬どもの後ろ姿以外は人影無し。
「あぶねぇあぶねぇ」
とっさに植え込みに隠れたけど、まぁ見つからずにすんだな。
それにしても……。
「なんで朝霧が俺のCBのとこにいるんだ?」
首を傾げながら、駐輪場へと足を向ける。