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全てを超越
【コメディ 恋愛小説】

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全てを超越『2』-1

『ごめんなさい。夕凪くんって、良い人だけど……。』
彼女は申し訳なさそうに、少し言葉を切った。思わず聞いてしまう、俺ってバカ、
『だ、だけど……?』
『あたし、自分より背の低い人とは付き合いたくないの』

グッサァッ!!!
痛恨の一撃!!
15才のイチタに526の精神的ダメージ!!
『ごめんなさい。それじゃあ』
そう言って、彼女は走って去っていった。
……あぁ、そうさ。どうせ俺みたいなチビとは付き合いたくないだろうさ!!
走りながら、俺は叫んだ。
『ちくしょーーー!!!』


「ちくしょーーー!!!何で俺がここまで追われにゃならんのだ!?」
五年前の苦い記憶を思い出しながら、俺はひたすらに走る。後ろからは『朝霧親衛隊』とでも自称してそうなバカ面が何人もいる。奴らの狙いは俺の持っているメモ用紙だ。
「誰がバカ面だぁ!?」
「我らが朝霧さんに手を出した色情魔め!!」
「さぁ、大人しくその至宝への地図、もとい朝霧さんの個人情報を渡せ!!」
口々に妄言垂らしやがって!!
「個人情報なんて、尚更お前らアホ共には渡せんわ!!」
こんな奴らに渡ったとなれば、朝霧にどんな迷惑がかかるかわかったもんじゃない。まだ好きとかそう言う感情はないが、自分の不手際で迷惑をかけるわけにはいかん。
三号館の食堂から飛び出した俺は、そのままひたすらに走って図書館へ。図書館は学生証を駅の自動改札のような機械に通さないと入れないが、あえて無視。
ごめんなさい、事務員のおばちゃん。
半地下一階とも言える一階ロビーを駆け抜け、休憩所の窓から出られる。
呑気に昼飯食ってる奴らの横を駆け抜けて、窓の鍵を開けて、と。
「甘い!ここに来るのはお見と「邪魔だ」
ゲシッ!
いきなり頭を出したバカ一名を足蹴にして、そのまま走り出す。なんか言ってたけど、知らん。
「あぁ、田中がやられたぁー!」
あ、田中って名前だったんだ。
田中がやられた事によって、奴らの敵意が三割増しになった。なんかバットとか角材とか持ってるけど、気にしない。
所詮、あんな武器は接近出来なきゃ使いもんにならん。朝霧を追いかけ回してかは知らんが、運動不足な事が明白な奴らに追いつかれる程、俺は衰えてはいない。そのまま俺は奴らを千切って、姿を眩ました。


「あぁ、平和って良いなぁ」
本来、立ち入り禁止の屋上で、のんびり過ごす午後。春うららかな過ごしやすい気温と日光に俺の瞼が自動的に閉まっていく。
「騒動の渦中にいる人間が呑気に昼寝?」
かけられた声で瞼が上がる。見慣れたキツそうな目がこっちを見ていた。
「春子か。なんか用か?」
「別に。ここは一兄が教えてくれたとこじゃん。あたしがここに来たって、おかしかないでしょうに」
そう言って、春子は俺の頭の横に立った。
「……もうちょっと自覚持てよ。色気のねぇパンツが見えてるぞ」
「色気があるの見せたって、どうせ一兄だしね」
要は俺を男として見てない訳ね。ま、俺だって妹同然のこいつに欲情なんかせぬ。
ふわっと、心地よいそよ風が屋上を包み、春子の茶髪がなびく。
川島春子。それがこいつの名前だ。歳は一つ年下の19。
ボーイッシュな髪型がよく似合っている。傍目から見れば、美少女の類になるのだろうが、こいつとの付き合いはすでに20年近くなる。いわゆる幼なじみと言う奴だが、お互いに意識なんざしたこともない。


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