『半透明の同居人』-6
「へ〜」
ルイはそう言って今度は僕の方に顔を向けてきた。
「結構かわいいじゃん」
僕はルイを無視してテーブルの前に座った。
「上手そうだ。今日は何が隠し味かな」
「さあて、何でしょう」
僕はカレーを一口食べた。ふむ。これはおそらくは・・・
「チョコレートとにんにくかな」
「すごい。正解」
リカはカレーを作るのが上手い。
「今日の面接どうだった?」
「多分、大丈夫。無難にこなせた」
「そっか。じゃあ私達の未来に一つ近づいたわけね」
リカは目を細めながら言った。
「何未来って」
ルイがそう言ったが、僕は無視した。むしろ、この状況で無視しない方がおかしいだろう。それでも、少しルイは不機嫌そうな顔になり、そっぽを向いてテレビを見始めた。
それから、夕飯を食べて、リカの大学での出来事を聞いたり、バイト先の愚痴を聞いたり、特に取り留めのない話をした。時間は22時をさしていた。
「あ、と。今日帰んなきゃいけないんだ」
「そうなのか」
「うん。ごめんね。また今度泊まりに来るから」
そう言うと、リカは荷物をさっとまとめると「じゃあね」と小さく手を振りアパートのドアからその先へ抜けて言った。
「とぉー!」
いきなり後方から声が聞こえたかと思うと、僕は背中に強い衝撃を受けて、床に突っ伏した。
(蹴られた??)
起き上がってふり返ると、ルイがまるで空手の型のような状態で構えていた。
「よくも、何回も無視してくれたわね!」
「そんなこと言っても、普通は返せないだろ。あの状況で」
ルイは何か言いたそうな顔をしていたが構えを解いた。ルイは僕の前に座ると、僕の顔を覗き込んだ。
「未来って何?なんか約束しているの」
ルイはまっすぐ僕を見つめている。
「結婚するんだ。卒業して、就職決まったら。すぐに」
「そうなんだ」
ルイは一瞬寂しげな表情を見せた。しかし、すぐに笑顔を見せた。
5
8月15日。
世の中はお盆休みだ。僕にとってもそれは例外ではない。僕も実家に帰ることにした。
「いいのか?お経とか聞くかもしれないけど・・・線香とか、ロウソクとか」
「幽霊ってもの誤解してない?そんなん、なんの影響もないよ」
僕の実家までは電車で約6時間。さすがに正月とか夏休みとかまとまった休みがあるときしか帰れない。僕が帰るのも、正月に帰るとき以来だ。
電車に乗っているときルイの胸元にネックレスが光っていることに気がついた。
(そんなものあったけ?)
ルイも僕の視線に気がついたらしい。
「なによ?」
「いや、そんなもんつけてたっけ?」
僕はネックレスを指差しながら聞いた。
「何今頃?はじめからつけてたよ?」
そうかとつぶやき、よくネックレスを見た。するとそれはよく出来てはいたが、おもちゃのようなものだった。
僕の実家は田舎にあるがそれほど大きい家ではない。僕には兄弟がいて小学校4年まで弟と同じ部屋だった。それが、母屋の隣ふるい小屋建て直し、その二階に僕ら兄弟のそれぞれの部屋が出来たのだ。それ以来、僕はその6畳の部屋で寝起きしていた。
「コウイチは帰ってないの?」
コウイチは僕の弟の名だ。2年前から岡山の大学に通っている。
「なんか、バイトが忙しいみたい。」
母はそう答えた。母は専業主婦だったが、僕が小学校を卒業したあたりから、地元の郵便局で働きに出始めた。どうやら、僕ら兄弟の大学までの学費を稼ぐためらしかった。僕は自分の部屋に入る。僕の部屋は僕がここで住んでいたときよりの確実に綺麗である。定期的に母親が掃除してくれていたのだ。