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底無しトンネル物語
【推理 推理小説】

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底無しトンネル物語U-1

トンネルは照明灯の奇怪なオレンジ色が昼間より一層下品に輝いている。
二人の男の声がトンネル中にこだまする。
小柄な男の気取った声が聞こえる。
「今回の取引は手間がかかったぜ」

「ああ、すまなかったな。銀行を襲ったのはマズかったよ。おかげでトンネルの山側の出口は警備が厳しくなっちまったからな」
 スーツ姿の男はそう言って薄笑いした。

「さてさて薬の取引といきますか」
小柄な男は舌で唇の端を一度嘗めて、なれた手つきで黒い物質の入った袋をスーツの男に手渡す。

「お疲れ様、これが約束の金だ」と言ってスーツ姿の男は懐から回転式の拳銃を取り出した。

 小柄な男は少し引きつった表情で何の真似だ?と言って身構えた。

「組織はもうこの町から撤退することに決めたんだ。悪く思うなよ、あんたの役目は終わったんだよ」
スーツの男はへっへっへと気味の悪い枯れた声で拳銃を小柄な男に向けた。

パンッ! 

銃声がトンネル内に響く。

 だが、苦しんでいるのは拳銃を持っていたスーツの男であった。

「そこまでだ!」
 そこには磯山警部が自前の拳銃を握りしめ立っていた。銃口から白い煙が立っている。警部は見事にスーツの男の銃にヒットさせて手から銃を弾き飛ばしたのだ。

僕は、磯山警部の後ろからゆっくりと小柄な男に近づく。

 その男の目の前に来たところで僕は重い口を開いた。
「本来、自らの所有物を人に貸与した後、犯罪というリスクを背負ってまで貸与した所有物を盗ろうとは思わない。単に返してもらえばいいわけですしね」
 僕は一呼吸置いて話しを続けた。
「しかし! 所持していてはマズい物を貸与という形で教唆し、善意の運び屋として利用したなら話しは別です。ましてや僕やミサトのような中学生ならリークされにくく警察も見落としやすいですから」

僕は確信を突く。
「そうですよね! 山下先生!」

小柄な男はこちらを振り向き、歯を食いしばり強張った表情を僕に向ける。その人はまぎれもない山下先生であった。


 僕は肩で軽く息をして再び話しを始める。
「まず昨日の昼に起きた強盗事件で、トンネルの山側の入り口は警察による警戒が厳しいぞとでも組織から聞かされたんでしょう。焦ったあなたは取引用の薬物を入れたカメラを、学校で僕とミサトに新聞係りの仕事として貸与した。まあ実際には、僕らは海側の町へと麻薬を運ぶ役目を果たしてしまったわけですがね。そして見事に警察関係者や麻薬捜査の警察犬に何も怪しまれることなく通り過ぎた」

磯山警部が声を荒らげて言った。
「観念しろ! 学校の物理室にあるお前のディスクから栽培に使った肥料や麻薬に関する資料がどっさりでてきたんだぞ! 大学時代に植物学を専攻していたお前には麻薬製造などわけないだろう!」
山下先生は力なくその場に座り込む。

「生徒資料からミサトの誕生日を調べて、留守中に家を荒らしたのもあなただったんですね。しかし、ミサトは出掛けた先の海鮮料理屋を撮ろうとカメラを持って出かけた。結果、家のどこからも麻薬入りのカメラは見つからなかった。」

うなだれる山下先生の腕に警部が手錠をかける。左手に付けている銀時計が虚しく揺れる。


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