わたしと幽霊 -花-(前)-1
「ね、何色が好き?」
「…黒だな」
「黒かぁ…なんかやらし」
「殴るぞ?」
あたしはクローゼットを開けたり、閉めたり。
着ていく服がなかなか決まらず、すでに30分が経過。
「これが妥当だよね〜」
「結局、最初に見ていた奴に戻っただけかよ」
呆れ顔の高谷さんのご指摘を無視して手に取ったのは、初夏らしく薄ピンクのワンピース。
服は悩むよね。
そういう年頃なんだから仕方ないじゃん…
あたしが着替え始めるのが合図のように、高谷さんは部屋から姿を消す。
ワンピを着込み、鼻歌混じりに姿見の鏡の前でくるっと一回転。
去年のこの時期よりも背が伸びたから、ちょっとキツイかも??
「お待た〜」
あたしは部屋のドアを開け、高谷さんにひらひらと手を振った。
今日は高校の創立記念日で…だから学校は休み。
実は前々からちょっとやりたい事を思いついてて、今日はセンター街に買い物に行くつもりだったんだ。
何をやるのかは、高谷さんにはまだ言ってない。
(もしかしたら怒られるかもしんないけど)
余計な事をするな、とかドライな口調で言う高谷さんの顔が思い浮かぶ。
…そんな事を思いながら。
履き慣れないロウヒールにつまづきそうになりながら、あたしはセンター街に向かった。
『来ない…来ない…』
センター街の入り口に差し掛かった時、耳の後ろから低く囁くような声が聞こえ、ぞくりとする。
「…えっ?」
(なに、この声…?)
幻聴じゃなく、はっきり聞こえる声。
『来るな…来るな…』
…また聞こえた。
あたしは立ち止まり、あたりを見回す。
どこから聞こえるんだろう…?
いきなり立ち止まったあたしを邪魔そうに避けていく、たくさんの通行人。
その隙間から見え隠れする細い景色の中に――
(あ、いた)
あたしは目を細める。
今、通ってきたT字路の角…さっき通った時は気付かなかったのに。
「男の子?」
白いTシャツに紺のカプリパンツ、黒いキャップ帽をかぶった小さな子が、角のガードレールの上に腰掛け、歩道をじろじろと見ている。
何故だか分からないけど…あたしには、あの呟きの主が彼だと根拠もなく分かっていた。
そのすぐ後ろは車道で…車がびゅんびゅん通ってる。