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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*4*-3

「ハハッ…やっぱりね」
困ったように笑われたって、好きか嫌いかで分けるとしたら100%『嫌い』の部類に入るのだ。
「そっかそっか…」
楽しそうに呟きながら、矢上はあたしの隣を通り過ぎ、扉に向かってゆっくり歩いていった。
ズックと床が擦れるシュッシュッという音が教室に響く。
デジャヴ…ってヤツだろうか。この特徴的な歩き方、どこかで見たことあるような気がする。
矢上は扉をカラカラと開けて、体を少しあたしに向けた。そして俯き気味に
「オレは、音羽ちゃんみたいなの好きだよ…」
と呟いた。
その瞬間、体内に潜む活火山がドッカーンと火を吹いた。
「あ、それとさ!」
こちとら急な展開に対応出来ず混乱しているというのに、奴はこう言って悪戯に笑うのだった。
「幽霊なんて音羽ちゃんの周りにはいないよ?」
白目を向いているのではと思うほど、あたしの魂は体内から抜け掛かっていた。それをあたしは必死に繋ぎ止める。
言うだけ言うと矢上は教室を出ていき、どこかへ消えてしまった。


あたしは自分の席に座り、じっちゃんの名に掛けて人生初の推理をしている。
昨日、あたしは『矢上』と計画書を残して教室を出ていった。
それが六時。
忘れたことに思い出して家を飛び出したのが九時で、学校に着いたのが九時半前。足を見たのが九時半。
足の歩いていた場所は一組の教室から真直ぐ出てきたところだ。その先にはトイレがある。
そして、何より幽霊の歩き方と矢上の歩き方が一緒ということが最大のポイント。
こうは考えられないだろうか。
あたしがブチ切れして出ていった後、矢上はあたしの言葉に感動。心を入れ替えると決意。それを形に表すべく、手始めに三時間以上掛けて、あの面倒臭い計画書を書いてくれた。
全てが終わってからトイレに寄って帰ろうと思ったところ、あたしたちに遭遇。物陰に隠れてあたしたちの様子を伺っていた。だから、会話も全部聞こえていた。自分は幽霊でないことを知らせるため、遠回しにあんなことを言った。
よって、幽霊の正体は矢上。


あたしは気付いていなかったが、その時のあたしは少し微笑んでいた。
本当は矢上という人間は、みんなが思ってる程、悪い人間じゃないんじゃないだろうか。だって、あたしみたいなのを好きだとも言ってくれたし…。
そんなことを考えていたが、いつものあたしでなくなっていることに気付いた。頭を振って少し冷静になる。
もしこれが、女を落とす技だったとしたら?そして、あたしにも貢がせようとしていたら?
…可能性特大。
誰もいない教室で朝日を浴びながら、あたしはホッと胸を撫で下ろした。
引っ掛からなくて良かった。
やはり、あたしは金の亡者は信じられないし、好きになれない。
矢上 瑞樹、おそるべし…。


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