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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*4*-2

「無い…」


バックンと心臓が大きく動いて、息が出来なくなった。
「無い、無い無い無い無い、無いっ!!」
肩に掛かっているバッグの中身を引っ繰り返しても、机の中を漁っても、飛んでも跳ねても、壁倒立をしても、昨日確かにここに置いてあったはずの計画書とメモ用紙が無い。
鈍器で頭を殴られたような目眩がする。あたしは、フラつきに身を任せ、その場に頭を抱え崩れ落ちた。
これであたしに明日は無くなった。クラスの出し物が『休憩所』だなんて言ってみろ。罵声を浴びせられ、集団リンチに合わせられ、体中に「私はバカ」などという落書きをされ、そのままゴミステーションへ捨てられるのがオチだ。
もう、自主退学しか道はない。
悲しみにくれていたその時、ガラガラとドアが開いた。
こんな朝早く!?と思って振り向くと、矢上が不思議なものを見るような目であたしを見ていた。
「おはよっ」
矢上はニコッと口を吊り上げた。
「お…はよう…」
苦悩に悶えるあたしを見られた羞恥心よりも、昨日啖呵を切り、そのまま出てきてしまったことでの気まずさの方が勝っていた。
しかし、そんなこと気にする様子もなく矢上は
「何してんの?」
と相変わらずフレンドリーだった。
「計画書と…メモ用紙…無くしちゃった…。今日、提出なのに…」
「それってぇ」
矢上がどんどん近づいてくる。あたしの隣をすっと通り過ぎて、自分の机の中から二枚の紙を取り出した。
「これでしょ?」
矢上は呆然とするあたしを上目遣いに覗き込みながら、あたしの机の上にそれを置いた。
「あ…」
昨日まで真っ白だった計画書には、びっしりと丁寧な文字と図が並べられていた。また、樋口のメモ用紙には、至る所にアンダーラインが引かれている。
完璧な計画書。
「これって…」
あたしは計画書から、矢上に目線を移した。
絶対にありえないと思っていたけど、あたしが忘れていったから矢上が代わりに書いてくれたのだろうか。当の矢上は自分の髪の毛を触りながら
「オレって最低?」
と笑った。
矢上は完全に、昨日あたしが言ったことを根に持っているご様子。
矢上が余裕の笑みを浮かべているのが何だか悔しくて、あたしは何も言わず俯いていた。少しだけ見直したけれど、やっぱりまだ『イヤな奴ランキングNo.1』の座は変わらない。
「…そっか」
頭上で寂しそうな矢上の声がした。あたしは胸にチクンとした痛みを感じ、矢上を見上げた。
目の前にある矢上の笑顔は、口元は笑っているけれど目は冷たい氷のよう。
それがあたしは悲しいと思った。
どうして、コイツはこんな風にしか笑えないのだろう。間違えた笑顔なんて、他人を悲しくするだけじゃないだろうか。
「矢上…」
矢上にこんな言葉は勿体無いと思ったけれど、あたしは心の底からこう思った。
「ありがとう」
「ぇ…?」
矢上のお面のような笑顔がふっと消えた。代わりに目を大きく開き、ポカンと口を開けている。あたしは無言で見つめるだけ。
長いようで短い時間が流れる。矢上の顔がふっと綻んだ。
「うん」
完全では無いけれど、さっきよりはいい顔で笑えている。
なぜだろう。あたしはその笑顔を見れたのが嬉しかった。
「音羽ちゃんさ」
いきなり矢上が口を開いた。
「オレのこと、すっげぇ嫌いでしょ?」
いきなりの唐突な質問にあたしは数秒固まった。そして
「うん、嫌い」
と塩ラーメンのごとくあっさり答えているあたしがいた。


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