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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*5*-1

かくして、あたしは無事、計画書を提出することが出来た。自分は何もやってないので堂々と胸を張ることは出来ないが、これから頑張っていきたいと思っている。
雅博に提出する際
「おぉ、間に合ったんだな。俺的には休憩所でも楽で良かったんだが…」
と言われたが、雅博の皮肉はいつものこと。気にする方が間違っている。
それから二日後、原案が生徒会の方で正式に通ったという知らせを受けた。
あとは、文化祭までクラス単位で自由に動くことが出来る。


「原案、通ったって」
現代文の時間、あたしは俯せになっている矢上にそう伝えた。
矢上は顔だけをこちらに向けて
「そう」
と微笑んだ。そして、眠たそうに一つ、小さな欠伸をした。
「うん、そう。っていうかさ、もっと喜べば?自分が書いた原案が手直しされないでまんま通ったんだよ?」
あたしは、矢上の他人事のような態度にムカついた。これから、あたしたちでクラスを引っ張っていかなきゃいけないというのに、この男は冷め過ぎている。やる気の欠片すら見受けられない。
「じゃあ、嬉しい」
「じゃあ」ってなんだよ!と、あたしは静かに心の中でツッコんだ。
「あんたって、ホンット意味分かんない…」
無意識のうちに口が動いていた。
そんなあたしの言葉に、矢上は体を起こして、頬杖を付き
「どの辺りが?」
と首を傾げる。
しまった、と思ったがもう遅い。
矢上は、もう既にあたしを見据えていた。
あの目で見られるのは、とても居心地が悪い。全てを見透かしているように澄んでいて、でもどこかに憂いを帯びている。それが、何だか凜とした強さを醸し出していた。
「えっ…と、何てゆーか…その…」
毎度のことながら吃る。
矢上に見つめられていると、頭が上手く働かず、マシンガンの化身と唄われた口は歯切りの悪い言葉しか出てこない。
まるで不発弾…。
頑張れ自分、負けるなあたし。
自分で自分を応援して、息を整え、意を決して口を開いた。
「…だって、貢がせるし金の亡者だし自己中だし冷めてるし上手く笑わないし…。でも、計画書作ってくれたし、ホントはイイ顔で笑うし…」
だんだん語尾の方に近づくに連れ、あたしの声は小さくなっていき
「なんか掴めない」
と言った時には、口の中でモゴモゴ言わせているだけだった。
「へぇ…。オレってそんな風に思われてんだ」
あたしのモゴモゴは矢上の耳に、しっかり聞こえていたようだ。
気まずくて、あたしは矢上の顔をまともに見ることが出来ない。
面接の時、目線はネクタイの結び目を見ろ、と言うけれどまさにその通りである。
あたしは矢上の緩く結ばれたネクタイのさらに上まで、目線を這わせることが出来なかった。
「音羽ちゃん」
急に名前を呼ばれたのであたしは驚き、つい顔を上げてしまった。
ところが意外にも、そこにあったのは人を蔑むような冷たい目ではなく、優しく満足気な三日月型の瞳だった。
「いっつも強気な音羽ちゃんが、何おとなしくなってんの?あの夜みたく…」
…あの夜?
「オレの前でも、ウキウキしたような顔見せてよ。音羽ちゃんは元気で真直ぐだから、オレも明るくなれるんだよね」
ドックンドックンと心臓が伸縮活動を早めた。カァッと一瞬で体が熱くなる。

だけど、青春するのは少し早い。


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