〜グラドルAの受難〜-3
セットのほうは手際よく準備がなされ、ルキアは早くもガウンを解いた。
白いビキニタイプの水着は小麦色の肌によく映えている。
フラッシュが立て続けにたかれた。ポーズの注文など特になく、最初は自然な感じで流すようだ。
グラビア出身のルキアは慣れたもので、立ち位置を変え髪をかきあげる。
嶋村は無言でシャッターを切り続けた。合間を縫うようにアシスタントたちが動き回る。
気分が乗ってきたところで、嶋村が顔を上げた。
すかさずメイクが髪をとかし、肌にスプレーを吹きかける。
人間性には問題があるものの嶋村の仕事振りには好感をもった。彼を支えるスタッフもきびきびと動くしよく鍛えられている。
これならば彼に撮って欲しいというタレントが多いのにも納得がいく。
これはルキアにとっても充実した仕事になるかもしれない。そう思い直した矢先―。
「ライティング変えるよ」
スタッフへの細かな指示を終えた嶋村の眼鏡が光った。
「じゃあ、上(ブラ)はずそうか」
ルキアの心境を例えるならば、多少大げさながら絞首台にむかう死刑囚といったところだろうか。
覚悟していたとはいえ、そこはやはりうら若いひとりの女性。人前で脱ぐことに抵抗がないはずなどない。
そして何より確実にいえるのはもう後戻りできないということだ。
少しでも先延ばしにしたい。そんな心理が働いたかどうか。おずおずと背中に手を伸ばすとブラのホックにかけた指先が震えた。
こんなに薄くて頼りない布切れに今までどれだけ助けられていたか、改めてルキアは思い知った。
まわりは忙しそうに走りまわっている。機材のチェック、打ち合わせの最中でルキアを注視する者などいるはずがない。
それでもルキアは頭を上げられず、顔を伏せたままもじもじとやっていた。
「あかねちゃん。手伝ってあげてよ」
嶋村が苛立ちの声をあげた。名を呼ばれた女性スタッフが近づいてくる。
ルキアは引き攣った笑顔で拒否したが、女性は手際よく水着を剥ぎ取った。
拘束を解かれ、プルンと乳房がこぼれおちた。
中心部に薄いピンクの突起が顔をのぞかせている。ルキアは弱々しく胸をかき抱いた。
嶋村が耳障りな口笛を鳴らした。
「そのままでいいよ。もう少し寄せて」
ルキアの羞恥など関係なく撮影は再開される。
しかもそんな余裕はすぐに無くなってくる。
注文が細かくなってきた。先ほどとは違って嶋村は身を乗り出してカメラを構える。
短い時間にルキアはひざまづき、うつぶせになり腰を浮かせ様々なポーズをこなしていく。
どれも乳房を押しつぶすようなものばかりだ。それでもルキアのDカップは抜群の復元力で回復していく。
「ルキアちゃん、気分出てきたんじゃないの?乳首勃ってるぜ」
嶋村の軽口にルキアはこたえなかった。
からだが熱くなった。おそらく首筋まで紅く染まっているはずだ。
それをごまかそうと身をよじるが、カメラのレンズはそこばかりを狙った。
その行為にルキアは嶋村の粘性を感じ取った。
「じゃあ次は下はずそうかぁ」
のってきた嶋村が上機嫌で促した。
一瞬躊躇したルキアだったが、決心をきめて腰ひもに手をかける。
「ちょっとまて。バックショット一枚撮ってから・・・・・・」
嶋村の指示で壁に手をつき腰を突き出す。
ルキアはしきりに水着がヒップに食い込むのを気にした。
ポーズをとって待つ彼女のショーツが予告もなしに引き下げられたとき、劇の第二幕が上がったのだった。
「ヒャッ」
いきなりの不意打ちにルキアは声を上げた。膝が沈む。
しゃがみこもうとしたルキアを嶋村が後ろから抱えた。
「どうしたんだ?しっかり立って」
「ひどい。いきなり・・・・・・」
上手く言葉にならない。なんの覚悟も準備もしていない無防備な状態だったのだ。
嶋村は傲然と言い放った。
「どうせ脱ぐんだ。たいしてかわらないだろう」
ルキアは身体をあずけながらも胸はかばっていた。しかしずり下げられたショーツをあげることはできず身をよじった。
いつの間にか嶋村の手がふとももに置かれていた。
うらめしそうに嶋村をにらみつけたルキアだったが、それ以上の抵抗は断念した。力が違いすぎて喧嘩にもならないのだ。
向山がいてくれたら……。そうも思ったがおそらく結果は変わらないだろう。ただ気持ちがここまで節くれだつことはなかったろうが。
「少し時間をください。すぐに気持ちをつくりますから」
嶋村の返事を待たずショーツから脚を抜いた。涙をぬぐい壁に額を当てる。
取り乱してはならない。ここはプロに徹するべきだった。
これまでもルキアに際どいポーズを求めてくるカメラマンはいた。