バトンタッチ。-5
伏せ目がちなその表情に一抹の不安。
あいつ…やっぱり諦めるのか?
と思った瞬間。
ガバッと顔を上げた。
田和の目を見てわかってしまった。
アイツは…
「ヒポ!おれやるから!
先公見返してやりたいし、このまま志望校下げたら必ず後悔するから。
おれそれはしたくないから、がんばるわ!」
そう、彼の瞳は燃えていた。
眩しい光が宿った決心の瞳がとてもきれいだった。
それから毎晩田和は来た。塾の日も違う日も。
夜中の2時まで、二人の闘いが始まった。
勝算がないわけではなかった。
通知表の数値も田和のがんばりでうまく上がってきた。
この前の模試でも過去最高記録だった。
毎日繰り返し繰り返し進めたのはたった一冊のテキストだった。
クシャクシャに表紙がよれるまで繰り返した。
たまにひどく不安に駆られて田和は喧嘩腰に食って掛かってくる。
「おい!ヒポ。もしも受からなかったら責任とってくれんのか?おまえを信じていいんだな?」
おれは平然と応える。
アイツ以上の熱をこめて。「当たり前だ。その為に毎日がんばってんじゃねぇか!弱音を吐いてる暇はねぇぞ!」
そんな毎日が充実感が大好きだった。
熱い3ヶ月はあっという間に過ぎた。
入試前夜。
田和はおれの所に来た。
「ヒポ……先生行って来るわ!応援しててな!」
初めて先生と呼ばれた。
これが最初で最後だったが。
「おう!おまえが今まで積み上げてきたもんは絶対無駄にはなんねぇ!
自分の全てを出してきな!」
とポケットからあるものをおれは取り出した。
お守りと手紙。
昨日神社で購入した合格祈願を。
これ持っていけ!
おれはおまえを信じているから。
4月には先公達に合格証みせて見返してやろうぜ!
彼はうれしそうにそれを受け取り手を何度も振ってから帰っていった。
明日アイツの人生初の大勝負が始まる。
神様。どうにかアイツらを合格させてあげてください。
おれは汗ばんだ手を合わせて祈った。