迷惑メール-5
返信した。
「それがいいかもしれない。嵯峨野、おまえが一緒ならなんとかなる気がする。明日、一緒に相談してくれないか?
ティロリラーパラリルラー♪
From:長谷川 冴子先輩
気づいた時にはもう遅かった、嵯峨野だと思い込んでいた俺は、開いてはいけないメールを開いてしまった。
「ねえ、どうして返信してくれないの?私のこと、やっぱり嫌いだった?なんで私を見てくれないの?私はこんなに待っているのに。あなたのこと考えると眠ることができないの。ねえ、答えて。私は、あなたを待ってる。いますぐ会いに行きたい
咄嗟に周囲を見回した。会いに行きたい、だと…。俺の体は凍りついた。窓の音、下の部屋で家族の立てる物音、すべてが怖かった。
ティロリラーパラリルラー♪
From:嵯峨野
「わかった。まかせろ。また、明日。
メールのことは黙っていた。嵯峨野にまた、そう、また一人にはなりたくなかった。
次の日の放課後、嵯峨野と二人で長谷川京子を訪ねた。長谷川は、こうなることを知っていたかの様に俺たちを図書館へ誘導した。長谷川は、俺に話したことと同じ内容を嵯峨野に話した。「警察にはそのこといったの?」嵯峨野の質問に対する長谷川の回答は驚くべきものだった。「話したけど、無視された。」無視とはどういうことだ。この事件がもし、本当は自殺ではなく、他の何か、そう殺人だとしたら先輩の無念は計り知れない。俺は決意してメールを見せた。「これは…。」嵯峨野と長谷川は、驚いた表情で俺を見た。「先輩は、自分の無念を俺に伝えようとしてるんじゃないのかな?」長谷川は、眼に涙を浮かべていた。「俺たちが、無念を晴らしてやるべきじゃないか?」そうさ、それが、先輩のためでもあり自分のためでもあるんだから。「おいおい、冗談だろ。高校生に何が出来るってんだよ。俺は、やめとくよ。」嵯峨野は、そういって図書館を後にした。おどおどする長谷川の肩をポンと叩いた。「今週の土曜、柏原ダムに行ってみよう。」長谷川は、無言でうなずいた。
土曜、長谷川と俺は、ダムに来た。ダムは、事件があったというのに放水などの通常業務を行っている。町の電力を担っているのだから当然なのだが、なぜかくやしかった。「とりあえず、聞き込んでみよう。」俺と長谷川は、柏原ダムの周辺に住む人に聞き込みを開始した。長谷川は、使い物にならないと思っていたが、予想外の働きをしてくれた。3,4時間、足を棒にして動き続けた結果、何点かわかった。
?この辺りは深夜、車はほとんど通らないのだが、この日はうるさいぐらいに車が通っていたこと。
?警察に連絡したのだが、警察は少し注意しただけですぐにいなくなってしまったこと。
?となり町を根城にしている暴走族が、よくここに闘争やカーチェイスなどをしにくるが、警察が取り締まったことは一度もないこと だった。
「一番引っかかるのは、警察がなんでうごかないかってことだな。」長谷川は、軽くうなずいた。帰りのバスの中、証言者の声を録音したテープを俺はずっと聴いていた。このテープは、長谷川が取ってきたものだ。意外に気が利く。さすが、冴子先輩の、この場は先輩は封印しておこう。長谷川京子は長谷川京子なのだから。外を見ていると肩に重力を感じた。長谷川が、頭を俺の肩に乗っけて寝ていた。なぜか嫌な気分はしなかった。そうしてしばらく時間がすぎた。下車停留場まであと少しとなったときだった。