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迷惑メール
【ミステリー その他小説】

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迷惑メール-1

ティロリラーパラリルラー♪、携帯を開く。見たことのないメールアドレス、そして「あなたにお勧めの高額バイト!セレブな方々の夜のお相手募集!」という魅力的な文章。誰にでも見た経験がある迷惑メールというやつだ。彼女とメールしてる時や好きな相手とメールしてるときに来ればかなりむかつく。メールアドレスが、何かの拍子にこういった迷惑メールを送る業者に知られてしまったら大変である。一日に50を超えるメールがくる。
  俺、山中浩二もそんな迷惑メールにうんざりしている人間の一人だ。朝起きて携帯を開けば、そこには数十件もの未読メールがある。決まってすべてくだらない迷惑メールだ。学園祭実行委員に就任した時、学校のBBSに「おもしろい企画あったら下記メールアドレスまで」、としてメールアドレスをさらしてしまったのがすべてもの原因だった。アドレスを変えればいいのだが、「メールアドレス変えました。」というメールを送るのは非常に億劫だ。だから、俺は迷惑メール業者のお得意さまになっている。そんな俺の電車内での日課は、その迷惑メールを消去すること。「メニュー」→「1件消去」→「実行」、「メニュー」→「一件消去」→「実行」の繰り返し。もはやなれたもので、たとえ100件たまっていたとしても5分もかからないうちに消し終わる。
  外もそろそろ寒くなってきた秋口のある日、前日のバイトの疲れから早くねてしまった俺は、37件という量のメールを処分していた。「メニュー、1件消去、実行、と」もはや機械と化している。ところが、この日はいつもと違った。見知らぬメアドであったが文章がいつも見るそれではなかった。「いきなりのメールごめんなさい。同じ学校の長谷川 」メールを開かずに見える文章はこれだけだった。気づいた時にはメールは消えていた。しまった、どうしよう。同じ学校の長谷川、かつメールアドレスを知っているとなるとさしずめ、同じテニス部の2年先輩の長谷川冴子だろう。長谷川先輩は、1年前に卒業した人で学校でも随一のおしゃれさんで男子からの評判も良く、男子とも男女の関係ではなく友達の関係で多くの知り合いがいた。そんな長谷川先輩からのメールを消してしまったとあらば大変である。あのテンションの高い先輩のことだ何をされるかわかったものではない。高い夕食をおごらされることぐらいはペナルティとして平気で課す人だったからだ。「やっべー、どうしよう。」思案に明け暮れたがひとつ妙案を思いついた。メールの内容さえわかればいいのだ。幸い、同じクラスに長谷川冴子の妹である長谷川京子がいた。この“京子”は、姉と正反対の人間だった。根暗でまじめ、服装も地味で友達などほとんどいなかった。この“京子”と話すのは抵抗があるが、この際仕方がない。1万円クラスの罰金にくらべればやすいものだ。
  学校につくやいなや俺は長谷川京子に話しかけた。「あのさ、長谷川さん。昨日、お姉さんからメールがあったんだけど、間違って消しちゃってさ、内容なんだったか調べてもらえないかな。お姉さんだから簡単だろ?たのむよ。」京子は、じっとこちらを見据えていた。眼鏡とその上から垂れる前髪、そしてその隙間からうっすらと見える眼という風貌が、そのなんでもない行為を不気味に演出していた。「あの、どう?かな。」まるで幽霊に助けをもとめているかのようだった。長谷川京子は、一瞬悲しそうな顔をし、何も言わずその場を立ち去ってしまった。
  「おい、浩二。お前、あの幽霊に何話してたんだ?」嵯峨野が冷やかしにきた。長谷川京子と話すと決まって冷やかされる。これもあの女が孤立するひとつの要因でもあるのだが、まあ根暗な人間はクラスから孤立するのはどこのクラスでもあることだろう。「いやー、昨日さ冴子先輩からメール来たんだけど間違って消しちゃってさあ。」「うっそ!お前、それやべえじゃん!報復こえーぞ。」「そうなんだよ、だから長谷川にこっそり調べてもらおうと思ってよ。」「なるほど、でもお前どっちにしろ災難だな。なにせ亡霊と話さなきゃならないんだぜ。ま、せいぜい取り殺されないようにな。」両手を前にだし、うらめしやのポーズをとりながら嵯峨野は自分の席へ戻っていった。俺は、どうしたものかと頭を抱えた。とりあえず、メールの件は知らなかったということにしようと自分のなかで整理した。こんな言い訳が通じるとは思ってはいなかったのだけれど、今はそれしか思いつかなかった。
  ところが、その日の夜、奇跡が起こった。
ティロリラーパラリルラー♪携帯を見ると、見知らぬメールアドレス、画面には「どーも、長谷川冴子です。携帯かえ」という文章が見えた。メールを開き、全文を見てみる。


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