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tomoka〜Kana
【純愛 恋愛小説】

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tomoka〜Kana-4

店内に入ると、時間帯がずれているせいかLUCEの中はあまり混んでいなくて、店の奥にあるアンティークな椅子に腰を下ろすとメニューを2人で覗き込む。
「んー、あたしやっぱりデミグラスソースかな。かなは?」
「あたしは…、今日はシーフードにしよっかなぁ。ソースは…クリームで!」
決まったところで店員さんに声をかけると注文を取ってもらう。


「で?」
と、店員さんが行ったのを確認すると香が切り出してきた。
「で…とは?」
「何かあったんでしょ?実くんと。」
…相変わらず鋭い推理力ですこと。
「特にはないよ?」
「特にじゃなくてもいいんだけど。」
そう言ってニコッと微笑む香。…だからその笑顔は怖いんだってば。
「…かおりは?」
「ん?」
「昨日、何か無かったの?」
―実と2人でどこかに行ったじゃない。告白されたんじゃないの?
嘘でもいいから何も無かったって言って欲しかった。
「あー…。」
水の入ったグラスをいじくりながら、何かを思い出している香。
やっぱり昨日何か言われたんだ。
「や、言えないことならいいんだ。」
―ウソ。本当のことを聞くのが怖いだけ。
「…うん。ごめんね?そのうち分かると思うんだけど、」
そう言って言葉を切る香。続きを促そうとしたら、店員さんが料理を運んできてくれた。


こんなに味のしない料理を食べたのは初めてだったかもしれない。
あたしの意識はここではなくて違うところに、実のいるところに飛んでいた。
実、今日何してるんだろ。昨日飲み会だからきっとお昼まで寝て、そろそろ起きた頃かな?ゲーセンでも遊びに行ってるかな。それともスロット?スロットはしないって言ってたかも。
テニスしてたりして。好きだもんね、テニス。
窓から見えるこの日の空はきれいな秋晴れで、夏の青空より少し薄い青があたしは好きだった。


「ね、かなはさ。」
香の声に反応して、あたしは左手に持っていたスプーンを置くと、視線を外の景色から香へと移す。それといっしょに意識を戻すと、グリーンの食器によそられていたオムライスは、そのほとんどが消えていて。ボーっとしながらも、あたしはきちんと完食したようだった。
「かなは実のこと、好き?」
「うん。」
肯定の言葉が自然に口から出て、あたしはやっと自分の気持ちと素直に向き合うことが出来た。
あの思いっきり一重の瞳も、あたしを呼ぶ声も、あの手も、あの雰囲気も。
そう、あたしは実の作る空間すべてが好きなんだ。
―でも実が好きなのは…
「…香は?」
「あたしは、」
答えようとする香の顔が急にぼやける。驚いたような顔の香が視界に入った。
目元を拭ってみると指先が濡れていて、香にそんな顔をさせてしまった理由が分かった。


「ごめん。」
止めなきゃと思うのに頬をつたう涙は留まることを知らないようで、後から後から溢れてくる。
「ごめん、あたし…」
「かな…」
「今日は、帰る…ね。」
ゴシゴシッと乱暴に目元を拭くとあたしは席から立ち上がる。
「送ってく?」
香の申し出を「大丈夫。」と言って断ると、代金をテーブルの上に載せて、そのまま出口まで歩く。
LUCEを出たところで涙がまた止まらなくなったけど、もうそれを拭う気力も湧かなかった。


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