溺愛-4
To:徳永一樹様>
「すっかり冬の到来を感じさせる朝夕ですが、
あまり寒くなり過ぎてからではと想い、早速お誘いのメールをしてみました。特にお仕事に支障が無ければ、明日の金曜の夜は如何でしょうか?
つたない手料理で、大した物はご用意出来ませんけど、食傷気味の胃袋を満足して差し上げたいと思っています。ご都合は如何ですか?
箕山奈緒子」
RE:箕山奈緒子様>
「お心遣い有難うございます!喜んでお邪魔したいと思っています。
特に仕事には支障ありませんので気になさらないで下さい。それでは遠慮無くご自宅の方にお邪魔致しますね!
大体19:00位にはお邪魔出来るかと思いますが大丈夫ですか?
徳永一樹」
RE:RE:徳永一樹様>
「判りました(*^_^*)では19:00前後と云う事ですね?楽しみにお待ちしています、あっ!くれぐれも余計な手土産は無用ですからね…。
箕山奈緒子」
逸る気持ちで金曜の夜を迎え、一樹は早々に仕事を切り上げ、奈緒子の自宅へと向かった。
群青色の夜空にくっきりと月の輪郭が浮かび、
幾分緊張の面もちで呼び鈴を鳴らすと、軽やかに応じる奈緒子の声に解され、中庭が一望できるリビングへと通されていた。
琉球畳が敷き詰められたリビングの四隅には、
パチパチと音色を奏でる風情ある炭火鉢が置かれ、その緩やかな暖気と、座卓に並べられた手料理の品々は、都会の喧騒を忘れさせるように、
一樹の好む郷土料理で揃えられていた。
「さっ、戴きましょう…」
冷えた大吟醸酒が小気味よい音色で注がれ、氷の皿に盛られた河豚の刺身をメインディッシユに、一樹と奈緒子は尽きない会話と酔いに身を任せていた。
「箕山さん、この前話してくれた纏足の話ですけど、世紀の美女楊貴妃の足も、猛女で名高い西太后の足も、きっと纏足されていたんでしょうね…。」
「それは間違い無い事よ、当時、中国の男達は纏足の足でよろめき歩く女に欲情していたの…。
それは骨が砕け爪が食い込み、まるで拷問の様な激痛を伴ったでしょうし、纏足布を外した足は、肉が腐って異臭を放ったと言うし、きっと男達はそんな臭いをも愛したんだと思えるの、加虐性愛と被虐性愛、サディズムとマゾヒズムのルーツを感じてしまう…。」
「僕には想像のつかない世界だけど、そんな精神的崇高な繋がりが、
男と女が本来併せ持つ、偽りない姿なのかな?
理性や道徳心では片付けられない底無しの愛憎…猟奇殺人として世間を騒がせた阿部定の事件も、男を愛しすぎた末に、盲目的な愛に溺れ、愛に狂った末に男の一物を切断してしまった…。
官能的な話しですよね」
「愛し合う事に形なんてないの、理性も道徳も無い、そこにあるのは愛したい、愛されたいって云う純粋な本能よ…。
人は人に恋をし、愛情を感じ得た時が一番光り輝くの、私は愛情を感じ得る物をお店に並べる事は出来たけど、人間の欲望には限りがないものね…徳永さん、
今誰かに恋してる?」
「今、貴女に恋心を抱いているとしたらどうします?」
心地良い酔いに覚醒された一樹は、おもむろに奈緒子を抱き寄せ、奪うように唇を重ねていた。