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この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

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ハナツバキA-3

閉じたままの瞼でも分かるくらいの明るい日差し。薄い肌布団にうずくまって寝返りをうつ。たまに当たる風が気持ちいい…
「!?」
目が覚めた時、俺は全裸だった。
二日酔いも吹き飛ぶほどの衝撃。飛び起きて辺りを見回す。
ここはどこだ…。
見た感じワンルームのアパート。俺の寝かされた布団の隣にはマットレスがあり、無造作に脱ぎ捨てられたシャツと短パンがそこに誰かいた事を教えてくれる。
その時、
『ガチャン』
古いアパート特有の派手な鍵を開ける音が響いて思わず肩をすくめた。
誰だ…
開かれるドアを緊張しながら見つめる。
「あ、起きた?」
呑気な口調で言うのは、椿…ちゃん…
「!!!!???」
肌布団を羽織り、尻餅をついた状態でバタバタと後ずさりした。
え?
えっ?
俺何かしたの?
酔った勢い?
失恋した弱みにつけ込んでとか?
「おはよ、朝ご飯買ってきたよ」
「…」
何、このいつも通りな感じ。同僚が素っ裸で部屋にいるのに。
「どうした?二日酔い?」
「椿ちゃん…」
「ん?」
「俺、昨日、…何かした?」
一瞬の沈黙だったが、答えを聞くのが恐い俺には数分に感じられた。
椿ちゃんはふっとため息を付いて言い放った。
「あんな事したクセに」
『アンナコト』
って何!?
最低不潔軽薄変態……
様々な二文字がグルグル頭の中を駆け巡る。
やけ酒とは関係なくグロッキーな俺とは対照的に、椿ちゃんはスーパーの袋をガサゴソいわせながらおにぎりやら牛乳を机に並べていく。
「やたらハイペースで飲むと思ったらいきなりぶっ倒れるし、親切に抱き起こした瞬間あたしに向かってゲロ吐くし」
「………ゲロ?」
「恩を仇で返されたねー。送ろうにも草野君ち知らないし、置いてくわけにもいかないから泊めてあげたの」
「……」
「何か言う事は?」
「や、それだけ?」
「それだけ!?かなり重労働だったんだよ!!ゲロ臭いし!!!」
「そーゆう事じゃなくて起きたら素っ裸だから…、その…」
「ああ、あたしが脱がせた」
「は!?」
「当たり前じゃん。誰がゲロの付いた服で寝かせるかっての。風呂に引きずり込んで全部脱がすの大変だったんだから」
「………」
この時の俺は相当間抜け面をしていただろう。声を出そうにもセリフは一切浮かばない。ただ口だけは餌を待つ魚のようにパクパク無駄に動いていた。
「あたし去年実家で寝たきりのじいちゃんの介護手伝っててさ、こんな所で役立つとは思わなかった」
とどめ!
脳天にタライが落ちてきたらきっとこんな衝撃だ。布団にくるまったままバタンと倒れた。
俺、20歳の男だぞ?
なのにこの子にとって俺は、
寝たきりのじいちゃんと同じかい!!!!!
「お腹減ったでしょ。何食べる?」
「精力剤をくれ」
「ねぇよ」
その代わりに渡されたのは梅干しのおにぎりと緑茶。
悪気はないんだろうがじいちゃん扱いされてる気がする。


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