A〜試験どころやあらんやろ篇〜-3
次の日から、昼は授業、夜は黛樹が付きっきりで勉強三昧。3日目からは時間を無駄に出来ないという事で衣服を持ち込んで泊まりで勉学に励んでいる。黛樹の部屋に寝泊りしている嬉しさなんか、とっくに吹き飛んでもぅた…。
「っおっわりぃ〜……」
ガラスのテーブルに頭を打ちつけた。
「おつかれさん。これで一応赤点だけは免れるだろ」「ほんま、ありがとぉな」俯せのまま、顔だけ向ける。
「あぁ」
ふぃっと顔を背けられた。あれ?おれ、何にもしてないよな?気に障るような事したんかなぁ。あ、もしかして、このぴかぴかのテーブルに顔なんかつけたら皮脂で汚れるやないかっ!みたいな?
やってもうたっ。バッと顔を上げる。
「…あ、れ…?」
頭がグラグラし、テーブルの角にぶつけそうになる。「有理、少し横になれよ。こんなに勉強しても試験の時に眠ったら意味がないからな……」
黛樹の声を聞きながらフェードアウトしていった…
「ちこくっ!?」
跳ね起きて携帯を探す。
暗やみに浮かび上がった文字は03:20…。ほっと胸を撫で下ろす。と同時に自分がベッドに寝かされていること気が付いた。黛樹を探して目線を動かすと、テーブルの上で顔だけ横に向け俯せ寝している彼を見つけた。
ベッドの横にある、きれいな細工を施されたライトをつける。
「……」
寝顔なんて、初めて見る。長い睫毛。通った鼻筋。肉薄な唇。もっと近くで見たくて、ベッドを降りた。淡い光を反射して、艶やかに輝く栗色の髪。無性に触れたい衝動に駆られ、指を絡ませてみた。真っすぐなそれは、見た目とは裏腹に高級な猫のような触り心地だ。
妙な引力を感じる。
自分のなかの何かが警告を発してい。これ以上、近づいてはならない、と。
だめだとわかっているのに、引き寄せられる。
吐息が感じられる距離に、彼がいる。耳元まで顔を近付けた時、甘い香りを嗅いだ。香水だけではない、彼特有の甘い香りに
なにかが、ちぎれた
唇ふれた、と気付いたのは数秒後。慌てて体を離し、そのまま膝を抱え込むようなかっこうになる。
「…おれ」
眠っている相手に、
「最低や……」
朝、黛樹が起きる前に黒野邸を出た。何も知らない黛樹に、当然あわせる顔なんかない。最悪のコンディションで受けた試験はまずまずの出来だった。
ただ、黛樹とは一言も話していない。声を掛けられそうになると逃げた。変に思われているのはわかっているが、うしろめたい気持ちでいっぱい過ぎて普通に接することが出来ない。その状態のまま、冬休みへ突入した。