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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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悔恨そして決意-1


 すっ、と、ソファーから立ち上がったしのちゃんが、画面左側へと歩いてそのままフレームアウトする。しの、しの、と、さおりさんの声が画面外から小さく聞こえてくる。その様子が眼にも耳にも入ってくるけれど、視聴覚情報を脳が適切に処理できていない。身体は明らかに固まっている。
 たった今しのちゃんが発した言葉。あれは、どういう意味なんだろう。ビデオ通話中のいつもと違うしのちゃん。俺に笑顔を見せず、言葉も少なく、そそくさ、と席を立っていったしのちゃん。その行動と、最後の言葉「さよなら」を、俺はどのように結びつけ、どのように解釈すればいいんだろう。
 スマホの細いスピーカーからぱた、と扉が閉まるような音とそれに被さるようなしの、と言うさおりさんの声が聞こえ、やがて困惑した表情のさおりさんが画面右から現れた。

「どうしたんだろうしの……なんか、様子がおかしい。お兄ちゃんと話しているときも、そうだった?」

 口を開こうとしても、まるでなにかに固定されているかのように上下の唇が動かない。さおりさんの表情が、困惑から心配へ変化する。

「お兄ちゃん、大丈夫?やっぱり、しの……」

「……あ、だ、大丈夫で、す」

 ようよう開いた口から漏れたのは、かすれ、震えているのが自分でもわかるような声だった。

「カウンターのこっち側でちょっと様子を見てたんだけど、口数も少ないようだったし……そういえば」

 さおりさんが、ほっ、と息を吐いて続けた。

「昨日からちょっと元気ないとは思ってたの。学校から帰ってきたときとか真奈ちゃんと遊んでるときとかはいつもどおりだったんだけどね。夜になったら、なんだか静かになっちゃって……ごめんねお兄ちゃん、しのが、なんか変で」

「い、いいえ……」

 コンクリートを浴びせられたかのように身体の固まりが抜けない。そのコンクリートの主成分は「不安」だ。

「あ、あの……俺……」

 その先を口にするのは、それに対するさおりさんの答えを聞くのは、不安というコンクリートの強度をさらに高める行為にすぎない。けど、俺の不均衡な精神は言葉を止められない。

「俺が、その……しのちゃんとの電話、その……」

「え?あ、いや、ああ……」

 さおりさんの目がかすかに泳いだように見えた。

「うん、まあ、ちょっとはむくれていたけど……でも……」

 困ったような表情になったさおりさんと俺が、スマホの狭い画面越しに黙ったまま向かい合う。さおりさんがいるお店の中の喧騒も俺の耳朶に届いているはずなのに音声として脳が認識しない。頭の中は、ぐるぐる回る「さよなら」というしのちゃんの声でいっぱいになっている。さよなら。どういう意味なんだろう。
 さおりさーん。誰かが画面の外から呼びかける。言葉を続けられないでいたさおりさんが、画角の右方向に視線を向けて、はーい、と返事をする。

「ごめんねお兄ちゃん、お店立て込んできちゃった……あの、明日はちゃんとお兄ちゃんとお話するように、って言っておくから、うん。大丈夫だから、ね」

 そう言ってさおりさんが見せてくれる笑顔は、どことなくぎこちない。どう対処していいかわからない俺は、とりあえず画面に向かって会釈するしかない。

「じゃ、また明日、ね。おやすみなさい」


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