高嶋謙也の遺伝子-18
家も豪邸だが、人に金持ちを誇示するようなものではない。広い庭に比べると、控えめに言って質素に思えた。家の中に案内されリビングに通される。中は塵ひとつないと言っていいほど綺麗に保たれており、全ての物が整然としている。だが家具や家電はごく普通のものだ。ただその中に目立製品が一つもない事は確認した。
「どうぞお掛け下さい。お飲み物はお茶にしますか?コーヒーがいいかしら?お若いようなので。」
「あ、あの…、ポンジュースとか、ありますか?」
「え?え、ええ、ありますが…」
「じゃあポンジュース、お願いします…」
「分かりました。」
杏香は台所に行きグラスに氷を入れポンジュースを注ぎ運んできた。
「す、すみません。昨日こっちに来てからちょっとポンジュースに魅せられてしまって…」
「そうなんですか。はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
彩香はポンジュースを受け取る。杏香は対面に座り、少し緊張した面持ちで彩香の様子を見ていた。
「あの、本日お伺いしたのは、娘さんの山田優子さんの事と、ある人物と接点がないかちょっと確認したくて参りました。」
「ある人物、ですか?」
「はい。この男です。名前は後藤健司、元不動産業の社長さんの息子になりす。」
彩香は健司の写真を見る。
「いえ、全く見覚えはないです。」
「そうですか。」
嘘をついているようには見えなかった。
「この方は…」
「昨日発生した西進不動産爆破事件で亡くなった男です。」
「あの爆発で?」
「はい…」
彩香は少し違和感を感じた。それは娘が勤めている会社の爆発事件の話の割にはどこか他人事のような気がしたからだ。
「あの、西進不動産ってご存知でらっしゃいますよね?」
「はい。ニュースで見ました。」
「…あの、優子さんがお勤めになってる会社ですよね?」
彩香がそう尋ねると驚いた様子を見せた杏香。
「えっ!?優子が…!?」
決して演技ではない素の反応に見えた。そして自分の娘が勤務している会社を認識していなかった様子が意外だった。
「優子さんが…」
働いていた会社を知らなかった事を聞こうとした彩香の言葉を掻き消すかのように杏香は取り乱した。
「ゆ、優子は無事なんですか!?」
その形相にたじろいでしまう。
「優子さんはその場にいなく、現在では警察で保護してますから無事です。」
「そ、そうですか…」
身を乗り出した体を戻す杏香。安堵の表情と言うよりも、何かのプレッシャーから解放されたかのような姿に見えた。