高嶋謙也の遺伝子-17
彩香はホテルからタクシーに乗り、優子の実家に向かう。調べでは優子の父、山田孔明は歯科医であるとの事だ。母親は山田杏香で特に今働いていないとの事だ。それについて若菜は、まー歯医者さんの奥さんがパートする必要ないしねー、と言っていた。一応優子に東京から刑事が行くと連絡を入れて貰い、11時に自宅で会うとの事だ。優子の話だと電話での様子が少し変だったとの事だったが、性格は穏やかで超がつく程の真面目だとの事で、少なくとも優子の両親が彩香に危害を加える事はないだろうと話していた。優子には2歳年下の弟がいて、和也と言うとの事だ。小さな頃から和也が父親の歯医者を継ぐとの事で優子は割と自由に育てられたそうだ。優子も歯医者になるつもりはなく、歯科医になる為に英才教育をされていた和也に特に嫉妬する事もなく、むしろ良く面倒を見、和也も優子を慕っているそうだ。
そこまでは誰もが羨む裕福な家庭と言う印象を受けた若菜らであったが、母親の杏香の家柄を聞いて若菜は驚いた。
「えっ…?お母様は元農林水産省の三浦拓弘氏の娘…!?」
あまりの大物にびっくりした。
「でも何でまたお偉いさんの娘が愛媛の歯医者に嫁いだの?」
「父は東京の医大を出て東京の歯医者に勤めてました。そこで患者として来た母と出会ったと言ってました。父は元々そこで経験を積んで地元愛媛で開業するつもりだったと聞いてます。愛媛で開業してからは家族旅行以外で県外には出てないはずです。」
「じゃあお父さんが東京にいる時に健司と…、いや、それはないわね。その頃まだ健司は生まれてさえいない。」
「だから父と健司の接点はないはずなんです。」
「それじゃあますます健司が言った言葉が気になるわね…」
ただ何か色々と隠された事実がありそうだとみんなの意見は一致したのであった。
彩香を乗せたタクシーはホテルから30分ほど郊外に走った所に建つ立派な豪邸に着いた。
「…歯医者ってやっぱ儲かるのね…。」
少し羨ましくなった彩香はインターホンを鳴らす。
「はい、山田でございます。」
「こんにちは、私、東京から来ました警視庁捜査一課の神田彩香と申します。」
「お話は聞いております。どうぞ。」
すると門の鍵が開いた。彩香は門を入り玄関へと歩く。
(凄い庭…。もはや庭園じゃない。うわっ、高そうな錦鯉がいっぱい…。きっと私よりもいい餌を食べてるわね…)
あまりの豪邸ぶりに驚きながら20メートルぐらい歩き、ようやく玄関に着いた。