金木犀の誘惑-5
「良いんだよ!何も気にしなくて…」
建築業を営む父と、
生け花教室を自宅で開く優しい母親の間で生まれ、独り娘として溺愛されて育った事。
17歳の多感な時、バブル崩壊のしわ寄せで、父親が不良債権を負ったまま失踪してしまった事。
恋愛の末、28歳で九州男児と結婚するも、僅か4年で離婚、翌年に唯一の肉親である母親を突然死で亡くした事…。
壮絶とも思える半生を過ごしてきた彼女の身の上話に聞き入り、大樹は言葉を失っていた…。
「独りは淋しくない?」
言葉に詰まり、愚問をぶつけてしまっていた。
「時折りどうしようもなくって…」
「苦労したんだね…」
「君の寂しさには及ばないけど、僕も単身暮らし。お酒の相手位ならいつでも出来るし、世間的な相談ならいつでも乗るからね…」
しんみりとした雰囲気を打ち消す様に、明るく励ましの言葉を添えた…。
「いけない!もう午前様、帰らなきゃね。久し振りに手料理が味わえたし、とても旨かったよ!」
その場を立とうとすると、恵子の右腕が大樹の左腕を掴み、潤んだ瞳を輝かせる恵子を前に、大樹は呆然と立ち尽くしていた。
「今夜は独りで居たくないの…」
独り言の様に呟く恵子の心中を察し、再び腰を降ろした大樹に、しなだれる様に覆い被さる恵子だった…。
[群青色の帳]
覆い被さる恵子を受け止めると、リップグロスが輝く唇を重ね合わせ、生暖かい粘膜の肉片を大樹の口咽へ潜らせると、
激しくその舌を絡ませていた…。
大樹の理性は薄れ、
種の本能を剥き出しに、熱く怒張する自身の肉茎を感じると、恵子は重ねた唇をスッと離し、大樹の唇に付着したリップグロスを指先で拭いとり、その左腕を引くように、寝室の有る二階へと導いていた。
開け放たれた網戸越しの窓から、群青色の帳が射し込め、狭いベッドの上で重なり合う二人を妖しく照らし出すと、スレンダーな肢体に、似つかわしい程豊かな胸の膨らみを携え、程良く張った腰回りは、否応なく大樹を欲情させていた…。