金木犀の誘惑-15
「それで満足だって言いたいのかい?」
「その結婚で幸福になれそう?意地悪で聞くんじゃないけど…。」
「判らない……………」
「でも、もう決めた事だから……呆れます?」
「言葉に出来ないよ…」
「打ち明けてくれて有難う!今、頭の中が整理できないでいる。すまないがこれで帰るけど、気を悪くしないでくれ…。」
「話せなかった私の気持ちは汲んで下さいね?せっかくの最後の夜を不愉快な気持ちにさせたなら謝ります…。」
「もう何も言わなくて良いんだ、無理に打ち明けさせた僕こそ済まなかった」
「君が幸福になれる事、心から願ってるよ…」
「敢えてサヨナラは言わないよ?」
「それじゃあオヤスミ…」
「オヤスミなさい…。」
大樹は静かに玄関の扉を閉め、満天の夜空を見上げて大きく深呼吸すると、遣りきれない想いを抱えながら、恵子の家を後にした…。
[言い残した事]
恵子との最後の夜が明けた一週間後、暦は既に8月に変わり、いつもと変わらない月曜日の朝を迎え、忙しない午前をデスクの上で費やしていた。
「部長!宅急便です。」
「ここに置きますね…」
「あぁ、有難う!」
デスクの脇に置かれた小包を手にすると、差出人の記載はイニシャルと電話番号だけで、具体的な記載が無い事に気付きながら、見覚えがある筆跡に、それが誰からの物なのか、大樹には瞬時に想像できていた…。
逸る気持ちで包みを開けると、一枚の便箋に綴られた手紙と、包装紙に包まれた小さな小瓶らしき物が同梱され、躊躇う事無く、その場で手紙を読んでいた。